スクリーンのなかの医事法
第11幕「ジュラシック・パーク」(原題 JURASSIC PARK)
1993年アメリカ,監督スティーヴン・スピルバーグ
前田 和彦(九州保健福祉大学)
ジュラシック・パーク
作品名:
ジュラシック・パーク
(トリロジー・ボックス)
発売元: ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
販売元: 東宝
税込価格 \8.379
 第11幕は「ジュラシック・パーク」である.SFXを駆使し,太古の琥珀に閉じ込められたDNAから遺伝子工学によって蘇った恐竜と人間の死闘を描いた90年代を代表する超大作だ.バイオ・テクノロジーにより現代に甦った恐竜を使ったテーマパークを計画していた大富豪ジョン・ハモンド(リチャード・アッテンボロー)の招待で,古生物学者グラント(サム・ニール)とサトラー(ローラ・ダーン),そして数学者マルコム(ジェフ・ゴールドブラム)は南米コスタリカ沖合の島を訪れた.そこは太古の琥珀に閉じ込められたDNAから遺伝子工学によって蘇った恐竜たちが生息する究極のテーマパークだったのだ.だがオープンを控えたそのジュラシック・パークにハモンドの孫たちがやってきたころから次々とトラブルが起こり始める.
 CGを多用した本作は,映画の質としては,スピルバーグ作品として高いものではない.正直,脚本も未成熟でストーリーに必然性がなく,ラストもとりあえず終わらしたという感がある.それでは見るに値しない作品かといえばそうではないのだ.ストーリーを聞いて見ようかどうか考える映画ではない.見なければ何もわからない.画面にすべてのパワーがこめられた作品である.観客のほとんどはグラントとサトラーが草原で大型草食恐竜に出会う最初のころのシーンでノックアウトされる.「いいCGだなあ」ではない.まるで見るはずのない「本物」を見た感動があるのだ.そしてトリケラトプスに愛着を感じ,ラプトルから逃げる子どもたちやTレックスに追われる博士たちと一緒に冒険の旅に出ることになる.つまり,本作は「作品鑑賞ではなく視覚体験」なのだ.その意味で米英のアカデミー賞特殊視覚効果賞受賞は当然であるが,日本アカデミー賞やブルーリボン賞が外国映画賞としたのは少々違う気がした.もちろん適当な賞がなかったせいもあるが…….

■今の日本の法制度なら
 さて,ここで恐竜の話が出るわけではなく遺伝子研究に関する法律の話である.現在,世界の先端医療の多くは遺伝子解析や遺伝子組み換え生物によって語られる.日本においてもこの流れを適切に受け止めるべく,「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」が2003年に公布された.これは国際的に協力して生物の多様性の確保を図るため,遺伝子組換え生物等の使用などの規制に関する措置を講ずることにより生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の的確かつ円滑な実施を確保し,人類や国民の健康や福祉を確保することを目的としている.この法律において「生物」とは,ひとつの細胞(細胞群を構成しているものを除く)または細胞群であって,核酸を移転しまたは複製する能力を有するものとして主務省令で定めるもの,ウイルスおよびウイロイドをいっている.本法において「遺伝子組換え生物等」とは,次にような技術の利用により得られた核酸またはその複製物を有する生物をいう.それは,@細胞外において核酸を加工する技術であって主務省令で定めるもの,A異なる分類学上の科に属する生物の細胞を融合する技術であって主務省令で定めるものである.特に2005年4月から施行されたいわゆる「個人情報保護法」に対応するため,倫理指針が見直され,新たな「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」が出された.なお,現在の遺伝子治療については,当初「究極の治療法」として期待されたが,臨床的有効性が確認されたものはほとんどないといわれる.「治療」と呼ばれているものの,実際にはまだきわめて実験的性格がつよい研究段階にとどまる医療技術であり,「遺伝子を直接修復するのではなく遺伝子で治す」ということを知っていてほしい.

■筆者の独り言
 本作は不朽の名作ではないことはすでに話した.しかし,見て面白かった映画としては,映画史に燦然と輝く作品であることには間違いない.すなわち映画の映画としての楽しみ方を存分に見せてくれた作品である.その後スピルバーグは1997年に続編「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」を製作し,2001年に「ジュラシック・パークV」を公開した.どれもが視覚的にはすばらしいものだったが,本作の驚きを超えるものはない.ファースト・コンタクトの感動は宇宙人だけではなく,恐竜にもあてはまるのだろう.主演のサム・ニールは1981年の「オーメン/最後の闘争」(グラハム・ベイカー監督)に主演して認められ,本作と同年の「ピアノ・レッスン」(ジェーン・カンピオン監督)で花開いた.そしてもうひとり,ジェフ・ゴールドブラムも本作で人気が上がり続編の主役を演じるなど売れっ子となっている.いつの日か本当にDNAから恐竜が蘇る日が来るかもしれないが,……もしかしたら感動の度合いは同じなのかもしれない…….それだけの魅力がある本作は必見である.

(医療科学通信2006年1号)
 

 
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執筆者の著書: 医事法セミナー(新版)
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