スクリーンのなかの医事法
第8幕「ドラッグストア・ガール」
2004年日本(松竹),監督:本木克英
前田 和彦(九州保健福祉大学)

作品名:
ドラッグストア・ガール
発売元: ジェネオン エンタテインメント
 第8幕は『ドラッグストア・ガール』である。今をときめくクドカンこと宮藤官九郎が書き下ろした脚本に田中麗奈が主演し,『釣りバカ日誌』シリーズの本木克英が監督した作品である。薬学部3年生の女の子が薬さじをクロス(ラクロスの網部分)に持ち替えて田舎の商店街にサプリメント効果をもたらすコメディ映画であり,エンディング・テーマ曲になっているテクノ・ポップの金字塔,ラジオ・スターの悲劇(歌:The Buggles)とともに元気の出る映画となっている。

 薬科大3年でラクロス部の大林恵子(田中麗奈)は,ひどい振られ方をされたショックから飛び乗った列車の終点まで行ってしまう。その終着駅である摩狭尾(まさお)の町には「バンブーロード商店街」というさびれた商店街があった。そして一癖も二癖もある住人たちが住み,さまざまな商品を安く提供する大手ドラッグストア「ハッスルドラッグ」の進出に戦々恐々としていた。ふとしたことから「ハッスルドラッグ」のアルバイト店員をすることになってしまった恵子は商店街の住人,薬局の鍋島(柄本明),酒屋の山田(伊武雅刀),パン屋の沼田(三宅裕司),僧侶の済念(六平直政),そしてホームレスのジェロニモ(徳井優)に一目ぼれされてしまう。恵子に好かれたいがために商店街の面々は見よう見まねでラクロスの練習に明け暮れるが……。

■今の日本の法制度なら
 さて,本作の後半はラクロスのシーンが目立ってしまうのだが,メインタイトルは『ドラッグストア・ガール』であり,薬局や薬剤師についてのシーンもいろいろと出てくる。しかし一般的には薬品を扱っている薬局と薬店(ドラッグストアなど)の見分けも知られていないのが現状である。現在の薬事法でいえば,原則的には次のようになる。

(1)薬局:薬剤師がおり,処方せんにより調剤ができ,医薬品の販売もできる。
(2)薬店
 ア.一般販売業:薬剤師がおり,医薬品の販売ができる。
 イ.薬種商販売業:医薬品の知識経験がある者がおり,大衆薬を販売できる。
 ウ.配置販売業:医薬品をあらかじめ各家庭に配置し,後に使用した薬の代金を回収する方法で販売する。
(3)薬局・薬店以外で医薬品を扱える販売業
  特例販売業:医薬品販売業がない地域や特に必要と認められる場合に都道府県知事が指定した医薬品だけを販売できる。

 なお,薬局には名称制限があり,薬局でない場合には薬局の名称を使用することはできないことになっている。このため一般販売業などの店舗の名称は「○○薬品」「○○ドラッグストア」などとなる。したがって本作の「ハッスルドラッグ」は,一般販売業と考えるのが自然である。ところが,作中で医師(杉浦直樹)が薬局の鍋島に向かって「あのドラッグストアは,お前のところと違って遅くまで調剤してくれるし」というシーンがある。それでは薬店であるドラッグストアで処方せんを扱うことがあるのだろうか。

 そこで臨床薬剤学のH教授に聞いてみたところ,「通常,ドラッグストアを名乗っているのは薬店が多く,その場合調剤を行うことはできないが,調剤室を持つ薬局がドラッグストアを名乗っている場合がある。本来は患者さんやお客さんを混乱させないために調剤を行うなら薬局を名乗るほうが望ましいが,法的に強制できるものではないので」とされた。 

■筆者の独り言
 本作は売れっ子の宮藤官九郎の脚本となるわけだが,正直,完璧にシンクロとはいかなかったようだ。田中麗奈を生かすには脇役陣が個性的すぎ,釣りバカ流のテンポにクドカンの脚本は乗り切れなかったように感じた。では面白くなかったかといえばそうではない。名作傑作の質にはいたらなかったが,本作のコピー「サプリメント+コメディ」という点は十分に感じられ楽しめたのも事実である。

 さて,脚本のクドカンであるが,近年は『GO』(2001年,行定勲監督),『ピンポン』(2002年,曽利文彦監督),『アイデン&ティティ』(2003年,田口トモロヲ監督),『ゼブラーマン』(2003年,三池崇史監督)など,話題作ばかりである。どちらかといえば屈折していたり,複雑な背景を持つ人物像を描くことが多かったクドカンにしては本作はさわやかすぎたのかもしれない。しかし,クドカン本人が「ことのはじまりは田中麗奈さんのファンで,映画の仕上がりは麗奈さんが可愛く写っていればOKでした」と言っているのだからまあいいのだろう。そういう筆者も「ことのはじまりは薬学部の教員としては,ぜひ本作を扱ってみたかった」なのだから……。好きこそ物の上手なれ!?
ビデオ紹介サイト(ジェネオン エンタテインメント)
映画紹介サイト(公式サイト)
 

 
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執筆者の著書: 医事法セミナー(新版)
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