スクリーンのなかの医事法
第3幕「マイ・フレンド・フォーエバー」
前田 和彦(九州保健福祉大学)

題名:
マイ・フレンド・
フォーエバー
発売元:
KUZUIエンタープライズ/松竹株式会社/アミューズピクチャーズ株式会社
販売元:
アミューズソフト販売株式会社
(C)1995 Island Pictures Corporation.All Rights Reserved.
 第3幕は『マイ・フレンド・フォーエバー』である。本作のテーマは友情である。しかし,その友情はHIV感染者との友情であり,また声高ではなく日常の静かな会話のような語り口で物語は進められていく。
 12歳の少年エリック(ブラッド・レンフロ)は友達もなく,母子家庭の生活に追われる母にもかまってもらえずに一人遊びの日々を送っていた。そこに同じ母(アナベラ・シオラ)と二人暮しの少年デクスター(ジョセフ・マゼロ)が引っ越してきた。しかしデクスターは輸血が原因でHIVに感染していた。最初はエリックも偏見から庭の壁越しのやりとりだったが,彼はすぐに壁を跳び越し,そして心の壁も乗り越えていった。2人は,野草を食べるなどしてデクスターの治療を試みるがうまくいかず,最後は特効薬を見つけたとの記事を信じ旅に出る。
 結局,2人の友情には奇跡は起きなかったが,この作品のラストは涙なみだとはならない。ただ静かにAIDSとデクスターの死を日常の出来事として扱っているのである。もちろん発症により死にいたる病であり,偏見を持たれる面も描かれてはいるが,他の映画のように疾病としての恐ろしさや周囲のあまりにもひどい差別や偏見に眉をしかめるようなシーンは出てこない。この疾病の表面的な恐ろしさや偏見のひどさをこれでもかと描く時期は過ぎたのだと言える。
 大切なことは,患者や感染者を日常のなかで受け入れることである。それを本作はエリックの行動を通じて見るものに伝えようとしている。画面のなかとはいえ,以前は医療従事者さえ偏見を持った病を,ひとりの少年が友情という日常性のなかで受け入れた。デクスターはその思いに命のかぎり応えた。もうAIDSは特別なものではない。その思いを感じるだけでも価値ある作品なのだ。

■ 今の日本の法制度なら
 本作のつくられたのは1995年である。当時わが国には「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」という,いわゆるAIDS法が存在した。この法律は予防衛生法規としては標準的な内容を持っていたが,感染者や患者に対する保護はほとんど規定されていなかった(ただし「らい病予防法」をベースにしたのではということで最初からイメージはよくなかったようだ)。しかし,薬害エイズ訴訟,ハンセン病患者の補償問題など時代の流れのなかで,予防衛生法規と呼ばれた法律にも大きな転換期がやってきた。それが平成11年4月より施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,感染症法)である。前文においてAIDSやハンセン病における差別や偏見が存在した事実を認め,患者の人権に配慮した医療を進めるとした内容は,わが国の感染症対策の歴史に新たな1頁を開くことになった。
 さて,デクスターであるが,1995年当時では輸血の事故として医療過誤裁判に訴えるしかない。また,いわゆるAIDS法では金銭的な保障はもちろんのこと人権保障についても疑問視されていた。そして今現在,金銭的には残念ながら大きな変化はない。感染症法においても医療機関への国・自治体の費用負担の規定はあるが,感染者の医療費助成については,一類感染症(エボラ出血熱,ペストなどの5疾病)にほとんど限られている。ちなみにAIDSはインフルエンザやマラリアなどとともに四類感染症である。ただし,基点医療機関が定められるなど医療に関する状況は年々向上している。そして何よりも地域社会の受け入れは大きく変化している。薬害エイズの原告団や支援者の活動も大きかったが,多くの市民や学生などが感染者・患者に理解を示し,さまざまな活動をともに行っている姿が目立ってきている。法改正よりも地域社会の変化が早いのは世の常であるが,偏見や差別のなかにいた人々に対しては本当に大きな変化となる。もちろん法改正も遅ればせながらでも進めてほしいのは当然である

■ 筆者の独り言
 本作は淡々と進んでいく。公開当時,期待した割には泣けなかったと言った人がいたが,泣かせの映画ではないのは確かだ。  エリックとデクスターは他の少年と同じように喧嘩もいたずらもした。デクスターの死は彼らのいたずらとともに訪れるくらいなのだから。そして,本作の小道具としてシューズが大きな意味を持つ。友情の証,友の思い出として重要な役割を担っている。ラストシーンで川面を流れる1足のシューズを見たとき,まるで自らの思い出のように2人の友情と冒険を思い出してしまった。シンプルなストーリーだからこその感動を味わえたと思う。
 そして,友の靴を見守るエリックの顔は,少年から大人へと成長する時期の不思議な美しさに包まれていた。
 

 
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執筆者の著書: 医事法セミナー(上)医療・患者編
医事法セミナー(下)福祉・生命倫理編
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