スクリーンのなかの医事法
第10幕「世界の中心で,愛をさけぶ」
2004年日本(東宝),監督:行定 勲
前田 和彦(九州保健福祉大学)
世界の中心で,愛をさけぶ
作品名:
世界の中心で、愛をさけぶ
<スタンダード・エディション>
発売元: 博報堂DYメディアパートナーズ・小学館
販売元: 東宝
税込価格 \3,990
 第10幕は『世界の中心で,愛をさけぶ』である.『GO』(2001年)で日本映画界に新風を巻き起こした行定勲監督の2004年の大ヒット作として記憶に新しい.また片山恭一の原作は200万部を超すベストセラーであり,1980年代の『ノルウェイの森』(村上春樹)以来の恋愛小説ブームとなったものである.
 物語は大人になった朔太郎(大沢たかお)の婚約者律子(柴咲コウ)が失踪するところから始まる.そして朔太郎は律子の行き先が,初恋の相手亜紀(長澤まさみ)との思い出が眠る四国と知る.後を追う朔太郎はいつしか亜紀との切ない記憶のなかに迷い込んでしまうのだった…….高校生の朔太郎(森山未来)と亜紀の恋は二人でラジオにリクエストしたり,カセットにお互いの気持ちを吹き込んで交換するなど甘く淡いものであった.しかし無人島へ一泊旅行をし,二人の恋は永遠のきらめきを持とうと思えたとき,亜紀の白血病が発覚する.懸命に生きようとする亜紀に朔太郎は亜紀の憧れの地,オーストラリア・ウルルに彼女を連れて行こうとするが,亜紀は飛行場で倒れてしまう…….
 本作の場合,現在と十数年前をストーリーが行き来し感情移入がしにくかったのは事実である.『スタンド・バイ・ミー』(1986年,ロブ・ライナー監督)も原作(スティーブン・キング)があり,現在から少年時代を思い出すというストーリーだったが,現在の姿は最初と最後だけに抑え効果的な演出となっていた.なお,第28回日本アカデミー賞では森山未来が優秀助演男優賞を,長澤まさみが最優秀助演女優賞をそれぞれ受賞している.特に白血病の患者を演じるため自ら頭をそり上げた長澤まさみに注目が集まっていた.

今の日本の法制度なら
 本作の大きなポイントになっているのが亜紀の命を奪う白血病である.今回はこの病気を救うために必要な骨髄移植と骨髄バンク制度について骨髄移植推進財団の内容に基づいて説明したい.
 まずドナー登録は18歳(適合検査は20歳以上)から50歳までの健康で骨髄移植の内容を十分に理解しているものであり,体重が男性45kg,女性は40kg以上となっている.なお,既往症などにおいて登録できない場合もある.そして登録申し込み時に腕の静脈から5mLを採血し,HLA型(白血球の型)を調べる.後日,骨髄データセンターからドナー登録確認書を送られ,ドナー登録された人のHLA型と,患者のHLA型を定期的に適合検索する.これにより適合があると次のようになる.→別表
 実際には病状が小康状態になって体力が回復しているときでなければ移植手術は難しく,本作の亜紀が生きていた1980年代には骨髄バンクがなく,あったとしても急性期のまま移植手術を受けられる状態には回復せず逝ってしまう可能性が高かった.ちなみに女優の夏目雅子さんも1985年27歳で急性白血病により亡くなっている.また移植手術が成功しても,移植された骨髄が定着するまで患者は激しい拒絶反応と戦わなければならない.

筆者の独り言
 本作は,少年時代を思い出すといえば『小さな恋のメロディ』(1971年,ワリス・フセイン監督)や『スタンド・バイ・ミー』を,愛する人が白血病で逝くといえば『ある愛の歌』(1970年,アーサー・ヒラー監督)を思い浮かべる年代にとっては,映画としての良し悪しだけではなくある種の感慨を持って見られるのだろう.それは二人が交換したカセットを聞くウォークマンや作中に流れる佐野元春や渡辺美里のメロディも同様である.映画の価値とは名作や大作ばかりではなく,本作のように過去の人生に甘く切ない光をあててくれるものも捨てがたいものだ.できればこのような映画はTVやビデオではなく,薄暗い映画館のなかでひっそりとスクリーンの前に座り,思い出に浸るほうがいい…….
 ちなみに近年で白血病をテーマにした日本映画としては,故・三船敏郎の愛娘三船美佳が初主演した『友情―Friendship―』(1998年,和泉聖治監督)が秀逸である.

(医療科学通信2005年2号)
 

 
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執筆者の著書: 医事法セミナー(新版)
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