【レポート】
電子カルテが支える
心通う対話と多職種チーム医療
静岡県立静岡がんセンター(SCC)
院長に聞く 臨床科医の評価 画像診断医の評価


静岡県立静岡がんセンター概要
開  院:平成14年9月6日
診療科目:22診療科(院内標榜科目数36診療科)
病 床 数:615床(現在465床)
組  織:病院,研究所,疾病管理センター




*正式名称は「富士山麓先端健康産業集積構想」。民・産・学・官が連携して富士山麓に医療からウエルネスまでの健康関連産業を振興・集積させるというもの。
 静岡県立静岡がんセンター(SCC)は,静岡県東部の長泉町,東名高速道路沼津インターとJR東海道新幹線三島駅の間に位置する。北に富士山,西に駿河湾を望む小高い山の上にあり,静岡県のファルマバレー構想の中核を担う病院でもある。
 SCCは,患者とその家族への約束として「がんを上手に治す」,「患者さんと家族を徹底支援する」,「職員が成長,進化を継続する」の3点を掲げる。その約束を果たすために「多職種チーム医療」を実践している。従来の医療では,患者とその家族に対して主治医が全権限を有して向き合っていた。しかし,ここでは担当医,看護師,薬剤師など多職種がイコールパートナーとして患者と家族を等距離で取り巻いて支援する。「cure(診療)は医師,careは看護師とコ・メディカル」というように業務分担を明確にし,医師もワン・オブ・ゼムの位置づけだ。
「患者さんと家族を徹底支援する」ために,「心通う対話」を基本におき,患者が理解できるようになるまで十分な説明を行う。カルテ開示に始まり,医師や看護師との会話を録音することも許可している。それでも理解できなかったり納得できない場合,不安が残る場合には専任の看護師とメディカル・ソーシャル・ワーカーが常駐する「よろず相談」コーナーで話を聞くこともできる。また患者が知識を深め,必要な情報を集めるための「あすなろ図書館」もある。入院患者は自分の情報をベッドサイドの端末から把握できるようになっている。一方,患者からの提案や苦情は,病院のリスクマネジメント・クオリティコントロール室に集約され,調査結果を病院の幹部会議で決定,病院の上部機関である経営戦略会議に報告される。
「心の通う対話」と「多職種チーム医療」が実践できるか否かは情報共有が鍵になる。そのためには,いつでもどこでも患者の情報を見ることができるシステムが不可欠であり,電子カルテは必然である。



トビラが開いているのが画像サーバー。その右側のストレージ装置には,ハードディスクが格納されている。左奥にある棚にもバックアップデータが保管されている。


上の写真の黒い箱一つひとつがハードディスク。同じデータが3つのディスクに入っている。
● 電子カルテ ●
 電子カルテについては現在のところ明確な定義がなされていない。「HIS(病院情報システム),RIS(放射線情報管理システム),PACS(医用画像システム)」などと言われると,RISとPACSが放射線科のシステムで,HISが電子カルテというようにイメージされる場合もある。狭義に考えると,電子カルテとは,従来医師が紙のカルテに病名や検査依頼など手書きしていたものをキーボードやマウス,ペンタブレットで入力し,電子化したものである。この電子カルテ上に,MRやCTの画像,心電図,レセプト,生化学,看護記録,薬歴管理など各部門システムで生成されたデータが読み込まれる。この状態を総称したものが最新のHISである。
 SCCのHISは,電子カルテシステムは富士通だが,放射線部門システムは富士フイルムメディカル,治療システムは横河電機,病理システムはJR西日本というように部門ごとにベンダーが異なる。専門分野に特化したいわゆるマルチベンダーにより構成されている。
 電子カルテに期待されている機能のひとつが経営支援データの取得である。アカウンタビリティ(説明責任)が求められているのは企業ばかりではない。公立病院であっても経理内容については市民=納税者への説明義務があるとの考えから,SCCでは,患者収支,医師別収支,診療科別収支,病棟別収支,手術別収支,検査・処置別収支,疾病分類別収支を出している。

● 放射線部門システム ●
 SCCの放射線部門システムは,@医用画像システム(PACS),A放射線情報管理システム(RIS),B放射線読影レポートシステムの3つから構成される。
 完全フィルムレスとは,放射線科から出るMRやCT,CR,マンモグラフィなどのすべての画像をデータ化し,モニタ上で見るということである。と書くと簡単なように思えるが,実は,SCCの情報システムの全データ量のうち画像データが8〜9割を占める。この重いデータを瞬時に院内のモニタに呼び出すための方法は今のところ2つ考えられている。ひとつは大容量のサーバと高速の通信回線でオリジナル画像を送る方法。もうひとつは,画像は作成後すぐに読影しキー画像数点を圧縮して読影レポートとともに臨床医に返す方法。SCCは前者の方式を採用している。
 保管も問題となる。フィルムは袋に入れて保管しておくと,20年でも30年でも残すことができる。一部紛失はあるかもしれないが,基本的にはそのくらいの期間は残っている。しかし,画像データについてはその保証はなされていない。CD,MO,デジタルテープ,光ディスク,DVD,これら記録媒体(メディア)は後何年くらい売られているだろう? またそれを読み書きするハードウエアはいつまで供給されるのか。

秋丸正博・放射線技師長
 秋丸正博・放射線技師長は「われわれの要求のすべてを満足させてくれたのが富士写真フイルム社製のSYNAPSEだったんです。今考えると,何も知らないからこそ言えたんだと思います」。その要求は次のようなものである。画質に関してはフィルム同等の診断能が供給できること,いつでもどこでも簡単に瞬時に呼び出せること,直感的に操作できること,各モダリティから発生するオリジナル画像をオンラインで5年分蓄積できること,ハードウエア更新時にデータ移行し15年間管理できること,24時間,365日止まらないこと。
  これらをクリアするために,放射線部門システムは画像サーバとSAN(strage area network)ストレージ装置で一元管理している。画像データはこのSANから配信される。業務を止めないということを端末の前にいる医療スタッフから見ると,ソフトやハードの入れ替え作業中とか,ハードディスクのクラッシュなどの事情にかかわらず,画像データを瞬時に画面に呼び出せるということを意味する。それを実現するのが冗長化と呼ばれる技術で,ストレージを取り替え可能な複数のハードディスクで構成している。2つのハードディスクに同じデータを書き込んでおけば,片方がクラッシュしてももう片方が動き出し,何事もなかったように動き続ける。これが二重化と呼ばれる技術の基本的考え方である。ハードディスクを3つに増やせば三重化,4つだと四重化となる。SCCでは三重化,さらにバックアップデータを別において四重化している。開院から2年も経つとハードディスクが1か月に1個のペースで壊れるが,それでもシステムは止まらない。ハードディスクの記憶容量は年々増加しているので,5年後はこのスペースにさらに格納できるデータ量は増える計算だ。
 SCCは静岡県のがん対策の中核をなす施設として,医療連携にも力を入れている。画像データはインターネットでも標準的に使われているHTTP/HTTPSで配信されているため,かかりつけ医は紹介した患者の電子カルテをインターネットを介して閲覧することができる。電子カルテのデータならば今の通信速度で問題はないが,画像をJPEG圧縮して送らなければならないため画質への不安が残る。それに応えて医用画像(多くはグレイスケール)に特化した圧縮形式が各メーカーにより提案されている。このスタンダード化は今後の課題となるだろう。

● 取材を終えて ●
 本誌4号で紹介した昭和大学横浜市北部病院と同様,静岡がんセンターも,電子カルテ導入に際しては明確な目標を掲げていた。これら施設で開発された電子カルテはいずれ安価なパッケージ商品として販売されるだろう。望むと望まざるとにかかわらず電子カルテ導入の波はすぐ傍まで押し寄せている。多くの施設は,電子カルテをどう生かすかを考えるべき局面を迎えるだろう。電子カルテを導入しなくても,病院機能評価やISOなど第三者による評価は避けられない。業務は必ず見直されることになる。電子カルテの果たす役割は今後も注目していきたい。    

(編集部)
 
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