院長に聞く
多職種チーム医療

鳶巣賢一院長
 静岡がんセンターは,「患者さんと家族を徹底支援」して「がんを上手に治す」を基本理念として掲げている。その実現に向けたキーワードとなるのが“多職種チーム医療”である。鳶巣賢一院長にお話をうかがった。「チーム力のある担当医についた患者さんはハッピー」と,飄々と語る裏には固い信念が透けて見える。
 20年あまり医療の最前線で仕事をしてきて感じたのは,一人の力には限界があり,ほかの医療従事者と協調関係の薄い状況で医療に携わることは,すなわち患者さんにとっては不利益につながるという認識であったと言う。
 例えば深夜の急患で,消化管から出血しているかもしれないというとき,一人ではカバーしきれないことは当然でしょう。専門の医師も必要,検査機器を操作する技師さんも,また看護師さんも必要。その事情は,深夜などの時間外だけではなく診療時間内でも同様ですよね。
 したがって,担当医の個性にかかわらず病院のシステムとして,みんなで見守り,みんなでカバーして,みんなで協力してという展開をとっておかないと,組織として提供するサービスの安全性やレベルに,かなりふぞろいが生じてしまう。職種を越えてチームワークのいいところに患者さんが入ったときは,そこの総力がうまく結集するから,患者さんにとってもよりよい結果となる,と言う。逆に設備がよく,優秀な人材が大勢いるにもかかわらず,それを駆使することなくある特殊な偏ったサービスだけを受けるだけの患者さんは不幸だと思う,とも。
 そういう風通しのいいチームをつくるということ,組織としてシステムをつくっておかなければいけないということが,常に頭のなかにあった。そしてこの病院の構想を持ちかけられたとき,ぜひそれを実現したいと思ったのだと言う。しかし,多くの医師はチーム医療というと,診療科を越えて協力し合うという,医師だけのチームを考えるようだ。そうではなくて,多職種が集まって安全で質の高い,スピーディな,タイムリーな医療を実現するためのチームを実現したいのだと強調する。その結果,相対的に医師の地位が下がるかたちになるが,最初から出ているところは抑え,へこんでいるところは持ち上げるという表現を用いて理解を求めた結果,良質なキャラクターの持ち主の医師が占める割合は高い。準備段階で一部ぎくしゃくしたところもあったが,繰り返しポリシーを述べることによって理解を得られるようになったそうだ。少なくない医師たちが病棟でカンファレンスをするなど,自らのチームのメンバーの知識や技術向上のための努力をしている。それは,患者さんにとっても自らにとってもよりよい結果を生むことになるのだという。
 開院前の半年間はそういう体制づくりが大変だったという。今,その努力が結実しつつあるように見える。
 電子カルテおよびSYNAPSEの統合システムについては,ともに電子データであることから情報を共有するという点で優れており,特にSYNAPSEがカンファレンス時などに画像をいつでも,どこでも,スピーディに共有できるという意味で象徴的な役割を担っている,と言う。一方電子カルテは,まだ過渡的なシステムで,フィルムレス,ペーパーレスを導入するのは慎重であったほうがいい,とも助言する。患者さんのための多職種チーム医療をサポートする有効なシステムを試行錯誤しながら築き上げつつある自負が言わしめるものであろう。
(医療科学通信2004年3号)
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