放射線管理士として
緊急被ばく医療テキスト』の発刊に思う

川西義浩(陸上自衛隊中部方面衛生隊)
「やっとこの本が出た」という感がある.この本の執筆者たちには,JCO臨界事故で,3人の被ばく患者の治療に関係した方々が含まれている.不幸にも2名の方は亡くなられたが,その後の活躍を見ればそのときの経験が大きいことは想像にかたくない.

 私の住む兵庫県は,原子力施設はないが阪神淡路大震災での教訓を生かし総合的危機管理の目的から平成13年に原子力防災計画を策定した.そのなかに(社)兵庫県放射線技師会が協力団体として明記された.それは県内に放射線に関する専門団体が少なかったこともあるが,『緊急被ばく医療テキスト』執筆者のひとりである衣笠達也氏(三菱神戸病院外科医長)が強く推薦してくれたことにある.

(社)兵庫県放射線技師会は,原子力防災連携推進特別委員会を設置して兵庫県が依頼してきた事項に対してどのように協力していくか検討し,その第一歩として緊急時モニタリングマニュアルの作成に取り組んだ.私が班長となった技術班は,放射線管理士を中心にサーベイメータの特徴・取り扱い,各事象におけるモニタリング要領,表面汚染確認要領など,マニュアルの骨幹を作成して委員会に提出した.これをもとに緊急時モニタリングマニュアルがまとめられ,平成15年6月全会員に配布されたのである.この詳細については平成16年5月1日に東京で開催された1都3県管理士部会共催による放射線管理士研修会のなかで話をさせていただいた.



 平成13年6月に出された『緊急被ばく医療のあり方』のなかで医療関係者の役割として診療放射線技師は「医療機関における放射線防護を行うとともに,災害時においては,現地災害対策本部の要請に応じ,避難所等における周辺住民等のスクリーニング作業に協力する」とある.これは,原子力施設を持つ都道府県の診療放射線技師に対していわれていることかもしれないが,原子力事故はいつ起こるかもしれないし,その事故の大きさによっては,周辺の都道府県に協力を要請してくるかもしれない.

 放射線管理士部会では,昨年10月9日に第1回放射線管理士セミナーを開催した.当日台風が上陸するとの予報が出ているなか,全国から約40名が参加し,茨城県放射線管理士部会から原子力防災訓練への参加模様を聞いた後,GM計数管式サーベイメータの構造と取り扱いの実習,さらに放射線災害時の被ばく線量の推定計算の方法の講義があった.今後,全国でこのようなセミナーが開催されることを期待している.

 また,茨城,石川,福井,神奈川などの放射線管理士部会では原子力防災訓練に参加し,被災者の表面汚染モニタリングなどを行っている.そして,マンパワーの重要性を感じ周辺の管理士部会との連携を構築しようとしている.

 本テキストの内容は,序論,応用編,基礎編,資料編という少し変わった構成となっているが,青木芳朗氏が書かれているように「読者にとってすぐに役に立つように」という意図が伝わってくる.応用編では,被ばく患者の症状経過がカラー写真で掲載されているのが衝撃的であり,JCO臨界事故による被ばく患者の治療現場が想像される.そして,各章の終わりには「本章の理解を深めるための参考図書・文献」が紹介されており,さらなる探求心を掻き立てられるようになっている.

 放射線管理士は,「緊急被ばくに備え,当該関係者に放射線・放射能に関する知識の普及および教育に努める.また,緊急被ばくが発生したときは,適切な指示を与える」ことが業務のひとつに掲げられていることを再認識し,本テキストにより学習してくれることを切に願うものである.

(医療科学通信2005年1号)
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