◆ 新 刊 ◆
『<新編> 臨床医学概論』刊行の意義
● 座 ● 談 ● 会 ●
【出席者】(発言順)
金森 勇雄 鈴鹿医療科学大学
安田 鋭介 大垣市民病院
小野木 満照 岐阜医療技術短期大学
幅  浩嗣 松波総合病院
藤野 明俊 JA岐阜厚生連中濃病院
畑佐 和昭 土岐市立総合病院
【司 会】
井戸 靖司 木沢記念病院


井戸:今日は『新編 臨床医学概論』の発刊をめぐってお話を進めてまいりたいと思います。これまでの診療画像検査法シリーズの一環として出版したわけですが,今までとは毛色の違う内容です。まずは金森先生,どのへんがポイントでどういう目的で企画されたのかということから。


金森 勇雄
金森:診療放射線技師は今まで「読影」や「所見」という単語は使えなかった。しかし実践編を診療画像検査法のシリーズとして発刊してきまして,大体モダリティは全部終わったかと思うのですが,ここで基礎的なことを押さえるということで,臨床医学概論を計画し著者の皆さまに原稿や画像の提供をお願いいたしました。執筆を始めてから3年,本日は出席できませんでしたが,鈴鹿医療科学大学の渡部洋一先生と仕上げ段階での構成や校正で大変苦労したのも事実です。しかし,その間に診療放射線技師の教育基準が変更になりましたね。それに「読影」や「所見」という単語が入ってきておりますので,タイミングとしては非常によかったかなと。いずれにしても,これで少しは技師の地位の向上の基礎になるのではないかと思っております。

井戸:では安田先生にうかがいますが,今までの超音波やMRといったモダリティ中心のものとは違って,内容が大分変わったわけですが,技師に読んでいただく本としてどのへんに気をつけられましたか。


安田 鋭介
安田:今度の本には「疾病概念」や「症候各論」といった疾病の基本的な知識が入っています。技師も四年制大学になりある程度医学の基礎知識を勉強するわけですが,この本を1冊持っていただくと,就職してから職場で先生方やほかの医療スタッフとチーム医療をやっていくうえで,学校で補えきれなかった分が十分網羅できているかと思います。数ある検査のなかで画像診断というのはほんの一部で,疾病ごとに大系に立った今回の本は,本当に大きな意義があるものだと感じています。

井戸:では小野木先生,教員の立場からご意見お願いします。


小野木満照
小野木:医学概論というと,タイトルからしてアバウトな,核心を得てない中途半端で終わっている内容の本が多いという印象がありましたね。ちょうど3年前にカリキュラムが変わりまして,それこそ臨床というか現場に近い内容を国家試験に入れたり,あるいはカリキュラムにも入れなさいということで,大綱化と申しますけれども始まったんです。事実3月4日に新カリキュラムを卒業した者が国家試験を受験したのですけれども,やはり基礎医学も昔のように浅いところではなくて,非常に深い。例えば解剖でも立体的に把握していなければわからないところも出たような感じがありますので,そういう意味からすると今回の本の出版はタイミングがいいなと思っています。それでうちの学生は今まで臨床が弱い部分でしたので,この本で基礎から臨床まで学ばせ,学生にもわかりやすいように用語の解説があったり,あるいは詳細に説明しているところもありますので,それまでのとっつきにくい概論とは違って,この本では本当に入りやすいなという印象があると思うんです。

井戸:すると,この本で勉強してもらえれば今年の国家試験の医学領域は相当クリアできそうですか?

小野木:相当かどうかは学生の勉強次第ですけれども,臨床の垣根も少しは低くなる,あるいは手を出したくなるような感じという印象を持ちました。十分いけるだろうし,また活用もしたいと思います。

井戸:それでは幅先生,今まで金森先生と一緒に6,7冊つくってこられましたが,この本ではどのへんに苦労しましたか。


幅  浩嗣
幅:今までの本では具体的に病院のなかでやっていることそのままを書いて,臨床的にやればよかったのですが,医学概論とか定義とか,僕らが今まで触れなかったところがメインの本になっているので,やはり違うなと思いました。定義のところが慣れていないというか,難しいというか,これから勉強しながらということになるのでは。臨床に関しては今まで書いているので問題はないんですけれども,基礎医学はちょっととっつきにくかったです。

井戸:逆にとっつきにくかったということに,この本の意味があると。

幅:そうです。金森先生もよく言われるのですが,本来はこれがスタートだと。そこから順番にモダリティ別の各論にいくわけですが,今回は逆からここまできたわけで,そういう意味では入りやすかった面もあったのは確かですね。

井戸:要するに今まで積み残してきた問題点を,ここで整理し直したということですね。

幅:そうです。それで出版する意味が非常にあるなということです。

井戸:では今回も藤野先生にこの本を手伝っていただきましたが,今までとの違いや,技師さんに何を期待して読んでいただきたいのかをうかがいます。


藤野 明俊
藤野:僕らが今までつくってきたそれぞれのモダリティにおける本では,画像における臨床や病態の話が多かったのですが,この本には病気の定義がきちんと書かれています。僕らは定義をわからずに病態を把握しようというところが多々あったように思いますが,やはりこういう本当の基礎の第一歩のところをもう一度勉強し直して,それからまたそれぞれのモダリティの本を読んでいただくと,より一層わかりやすく病態の把握ができるのではないかと思います。

井戸:医師とディスカッションするうえでは相当大きいと。

藤野:はい,そう思いますね。僕らも何かあっていろいろ調べたいときはすぐ医学辞書を調べるんですが,なかなか書いてあることがすぐ理解できないような難しいところがたくさんあります。それをこの本はわかりやすく説明していると思います。

井戸:続いて畑佐先生,この本を基礎にしてこれからまだ診療画像検査法シリーズの改訂その他を進めていかなければいけないのですけれども,今後の展望なども含めてどうなんでしょうか。


畑佐 和昭
畑佐:今の医療の主題が「患者さん中心の医療」ということで,われわれ放射線技師も画像診断のみということではなく,自分の作成した画像に対する読影までの責任,そういうものを持たなければならないわけです。今まで超音波CTの本の出版を担当させていただいたのですが,そういうものを読んでいくためにも,この本によって技師としての一番の基礎となる心構えが勉強できればいいなと思っております。もうひとつ付け加えると,われわれが技師になった時代にはCTやMRはなかったわけですが,現在ではモダリティもたくさん増えました。三年制短大,四年制大学を出て,国のライセンスを得れば診療放射線技師として働けるわけですが,それでも実際の業務にはほとんど役に立たないわけで,後輩技師の皆さんがこの本を参考にして,医療従事者としてますますレベルアップしていかれることを期待しております。

安田:私は金森先生と25,6年ご一緒させてもらっていますが,私が若かった当時には1年に5つから6つの学会発表はノルマだったんです。それで最初のうちは見よう見まねでやってきたんだけれども,各医学会での発表の場合には医局での症例検討会の後に学会の読み合わせの予演会があるんですね。そのときに徹底的にいろんな先生からご指摘をもらいまして,浮き上がることができないような状況に何回もなったんです。そういうときに医師から「基礎医学の知識がないからね」ということを言われて非常にくやしい思いをしたことがあって,そういったことをバネに頑張ってやってきたんです。医学の深さというのは,われわれの書いたようなレベルではなくてもっと非常に奥深いものですし,それをまず大前提にしても,少なくともこれを読んで医療チームのなかで勉強してもらえれば,恥ずかしくないところまでは持ち上がるのではないかなと思います。だから実際に病院で働いている人の役に立つものですが,小野木先生の言われるように学生さんのうちから勉強してもらえると非常にいいのではないかと思います。

金森:臨床医学は奥深いものですから,本来は実践編から入るのは学問的ではないということはよくわかっていたのですけれども,しかし現場の実践編を終えてからでないと初歩に立ち戻れなかったことも事実で,そのレベルに今回やっと達したのではないかと思います。そうすると,少なくともこういう本を机の上に積んでいただくだけでも,中味の内容は別としても読むだけの力は技師にもあるんだということで,地位の向上に役立つと。ちょっと話が学問的ではないですけれど(笑)。


井戸 靖司
井戸:それともうひとつ大きな意味があると思うのは,技師が画像以外の部分も書いたということだと思うんですよね。要するに感染症に関しても免疫に関してもそうだし,臨床検査の範疇の技師にも協力してもらって書き上げた範囲もあります。今まで放射線技師は画像屋さんだったんだけれども,そこから広い医学のベースの上に画像検査をやっていくという,そこまで技師が他の医療スタッフの協力を得ながらもなんとか書けたということが大きいのではないかなと思っているのですけれども。

金森:そのとおりだと思います。やはり画像から学問に入ると間違いが起きる。臨床医学のことを知らずに,なまじっかちょっと知っているからといって,画像に入ったところに自分自身の間違いがあったんだなあと。しかしそれも時代の流れでそれしかなかったですから,やむを得なかった。しかしそれはあくまでも間違いであると。これを認識していただければありがたい。

井戸:これは幅先生も言っていたんですが,間違いというよりも気がつかなかったんですよね。

金森:そうそう。そのとおり。

井戸:今までのシリーズで画像を中心に本を出してきてひとつの壁に気がついたんですよ。これはやってこなかったら気がつかなかったし,多分この医学概論にチャレンジすることはなかったと思うんですよね。この医学概論がないとこれまでの本が成立しなくなったという,逆説的だけどやはりそういうことじゃなかったかなと思うんですけれどね。

安田:僕たちのレベルは自分たちで認めたいんだけれども,6年も勉強している医師とはやはりおのずと差はあると思いますね。だけど頑張ってこういう本が皆の力でできたということは出発点だと金森先生はおっしゃいますが,そのとおりだと思うんですね。


金森 勇雄
金森:薬学に関しては大垣市民病院の森博美先生,検査は安藤千秋先生に校閲をお願いしました。薬の名前を商品名と学術名とをちゃんぽんに書いてしまいましたが,それを全部学術名に訂正していただいた。そしてときたまピントはずれのことについても加筆訂正を願った。専門をちょっとはずれると,自分の学術がいかに低いかということを再認識しましたね。臨床の実践編に入ると急に楽になったことは事実ですが,それ以外は大変でした。

安田:僕自身も今回こういう機会にもう一回勉強し直しているという気がして,本当にためになったと思います。それにわれわれの職種に限らず臨床検査技師にも通用するし,看護師さんや研修医の方にも通用すると思いますね。

井戸:医学概論というよりもハンドブックに近い使い方も可能かなと。

幅:臨床編を見ると簡にして要を得た構成で感心するんだけども,定義とかそれまでよく知らなかった専門外のことろが非常に多いので,それをこれだけ充実して勉強できたというのは非常にうれしかったですね。

金森:索引も渡部洋一先生と相当充実させたものにしました。したがって目次のところが非常に簡単になっています。そのかわり索引のところを引いていただくと,必ず内容がわかるようにしてあります。今までの実践編になかった新しい方式で,そこから引いていただくと字引としても役に立つと思います。

井戸:編集上非常に難しい意見がいっぱい出て苦労した本ですが,皆さんご苦労さまでございました。何万冊と売れるはずだ,ということで終わります。

編著者からのメッセージ
画像診断学の入門書
-基礎的な医学知識をもとに疾病と画像をわかりやすく記述-
 鈴鹿医療科学大学 渡部 洋一
 今日,診療に従事している診療放射線技師は撮像後,画像に関するレポートを提出したり,撮像中にモニターで緊急を要する異常像があれば,関係者に連絡をとりその対応策を講じるなど,チーム医療の一員として画像診断に深くかかわらなければならない施設が多くなってきました。
 これらの背景をもとに,教育分野ではカリキュラムや国家試験問題の改正が行われ,画像診断に必要とされる病態学や疾病と障害を中心にした臨床医学に関する教育が充実しました。
 X線CTやMRIなど各モダリティ別の診断学については,今まで成書も多いのですが,私たちにとって画像診断学の入門書ともいうべき,基礎的な医学知識をもとに疾病と画像をわかりやすく記述した著書の必要性を痛感していました。
 『臨床医学概論』では,画像診断に必要な疾病と症候を中心とした基礎的な医学概論から,代表的な各疾病に対し,診療で最も多く用いられている画像(内視鏡,超音波,X線CT,MRI,SPETC,X線写真など)をとりあげ,わかりやすく解説しました。
 これから画像診断を勉強される医療従事者や学生,教育分野では医学概論,臨床医学概論,画像診断学などの教科にご使用いただければ幸いです。

(医療科学通信2004年2号)
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