序:医用画像情報学

平成13年3月30日,診療放射線技師養成所指定規則が一部改正され,養成所の教育カリキュラムが大綱化された。これによって医用画像情報学が独立した専門分野のひとつとして明記された。

 医用画像情報学そのものの始まりは,1895年,ヴィルヘルム・コンラート・レントゲンによるX線の発見にまでさかのぼることができる。このとき妻ベルタの手など数枚のX線写真が論文別刷に添付されて研究者に送られたこともあり,医用画像情報学研究がX線発見直後からスタートした。「医用画像から有益な情報をいかにして取得するか?」これは診療放射線技術者にとって,過去から現在,そして未来にわたって追及されるべき永遠のテーマである。

 医用画像情報学が重要かつ明確なひとつの学問領域として確立した理由は,近年のICT(Information and Communication Technology)の発展によるところが大きい。医療現場へのICTの導入は,医用画像情報をはじめとする医療情報の積極的な利活用を可能にし,この学問領域の発展は医療の将来を大きく変える可能性を秘めることとなった。

 本書では,医用画像情報学で学ぶべき内容として,平成15年6月に発行された診療放射線技師試験出題基準(平成16年版)を踏まえ,医用画像工学と医療情報学に関する事項をとらえている。

 本書は3章から構成されている。第1章「医用画像情報学総論」では,医用画像とコンピュータの基礎事項についてまとめている。第2章「画像」では,医用画像工学に関する内容をまとめている。アナログ画像とディジタル画像,そして画像処理から画像評価に至るまで広汎な事項について解説している。第3章「医療情報」では,医療情報学に関する内容をまとめている。医療情報の基本事項,および医療情報システムについて解説している。

 本書は,診療放射線技師を養成する大学,短期大学,専門学校において教科書として使用することを目的として出版したものである。執筆者は全員,診療放射線技師養成教育に携わる現役の教員である。学生のことを常に念頭におき,学生が内容をよく理解できるように,わかりやすく,丁寧に執筆したつもりである。しかしながら不備な点やわかりにくい点も多々あるかもしれない。これらの点について読者諸賢よりご指摘いただくことで,加筆,修正するなどし,より良い教科書に仕上げていきたいと考えている。

 おわりに,本書の出版に,種々ご尽力いただいた医療科学社の関係者に感謝する。

平成22年4月吉日
                            編者 下瀬川 正幸