医療安全、リスクマネジメント、人間工学などの多くの成書があるなかで、読者の皆さんには本書を手にとって最後まで読んでいただきありがとうございます。医療を提供する側も受ける側も、「安全・安心」に裏づけられた「医療安全」が推進されるために本書が一助になれば、こんな嬉しいことはありません。
「人間は間違いをする動物である」といわれています。そのような前提に立って医療安全を捉えていかなければなりませんが、初心者でもベテランといわれる人たちでさえ誰しもがミスを起こすことはありえます。日常の診療業務のなかで、未然に事故を防ぐための施策を組織横断的な協力体制のもとで講じていくことが医療従事者としての責務といっていいでしょう。
筆者は、医療職として30数年来の経験を持つものですが、日々の診療業務において多重業務をこなしている医療従事者のすべての皆さんに、少しでも心身的なストレスを軽減し、業務に専念できる快適な作業環境、作業条件、労働安全衛生、よりよい職場の人間関係づくりなどの実現を目指していくうえで、本書からそれらのヒントを少しでも汲みとっていただき、日常の診療業務のなかに活かしていただくことを心から願っております。
本書は、医療人間工学が医療現場や医療従事者を養成している各教育機関で根ざしていくことを願いつつ、入門書として上梓いたしました。本書を読んでいただいた皆さんからの忌憚のないご意見やご指摘をいただいて、今後の研究の際の、貴重な参考資料にさせていただきたいと思います。
本書を皆さんのお手元に届けることができるまでには、前職場の医療従事者、看護教員、看護学生の皆さんをはじめ、多くの方々のご協力をいただきました。本書では、人間工学の先達者である諸先生方の数多くの成書や論文などを参考にし、重要な図表はできるだけオリジナルの意味を損なわないようにして、「医療人間工学」への導入のために出典を明記のうえ引用をさせていただきました。先学の諸先生には重ねて感謝申し上げます。
前職場の駿河台日本大学病院で専任リスクマネジャーとして、限られた時間ではありましたが、その任務に従事していた折に、人生の師と仰ぐ高橋元一郎副病院長(日本大学医学部放射線医学講座主任教授)には、医療安全管理室としての活動を通じて多くのことを学び、医療安全を推進していくうえで、人としてあるいは専任リスクマネジャーとしてのあるべき姿をじかにご指導いただきました。私たちの共通の恩師でもあり、人間工学を医療現場に活かしていくうえでの多くのヒントを教えていただきました宮本晃先生(日本大学大学院総合社会情報研究科・日本大学医学部社会医学系衛生学分野教授)からのご支援と絶えまない励ましをいただきました。日本人間工学会会長大久保堯夫先生(日本大学名誉教授)には、「人間工学」を医療現場や医療技術者を養成する教育現場に「医療人間工学」として根ざしていくことができればと、常々考えていたことをお話ししたところ、先生が大変喜ばれ、後押しをして下さったことも本書の出版の意を強くした背景になっております。宮本晃先生、大久保堯夫先生には、本書に対する貴重なご意見、ご高閲を賜りました。心より感謝申し上げます。
最後に、本書の執筆の機会を与えて下さり,筆者の遅筆になりがちの際にも、忍耐と寛容をもって対応していただいた医療科学社・古屋敷信一社長、編集に際して貴重なアドバイスをいただき、大変お世話になった齋藤聖之氏、丸山いつみ氏に感謝致します。
本書を筆者にとりまして、東京の父と仰ぐ橋本宏先生(社団法人日本放射線技術学会名誉会員)、今は亡き、北海道の両親(佐藤重次郎・チヨ)、現在、九州の地で健在に過ごしている義父母(春口三郎・千代)、長男幹也、長女菜美子に捧げたいと思います。
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