Med.Sci.Report

第30回日本超音波検査学会
―超音波用ファントムへの期待―
聖マリアンナ医科大学病院 超音波センター 市瀬 雅寿
 2005年5月28〜29日に標記学会が「匠の世界 in 超音波―本当に伝えたいこと―」をメインテーマに東京ファッションタウンにて開催された.第30回となる今年は2日間で延べ2400人近い参加者であふれ,盛大に行われた.参加者の大多数は,超音波検査というモダリティの歴史的背景より臨床検査技師である.しかし,われわれ診療放射線技師の会員も年々増えつつある.
 本学会の特色のひとつが「教育LIVEレクチャー」である.実際に人体を使って検査を進めながら,手技や重要ポイントの解説をする講演である.これには各領域(腹部,腸管,心臓,頸動脈,表在)ごとに1時間枠でプログラムが設けられている.
 質の高い超音波検査が施行されるためには豊富な知識はもちろんであるが,積み重ねてきた経験が土台となる技術,いわゆる職人芸的な要素が加わっていることも確かである.この要素を論理的に解析し,その成果をいかに表現し後続者に伝えられるか,あるいは教材としてどのように具現化して構築ができるか.この熱意が本大会のメインテーマにも表れているように思われる.
 桜井正児(聖マリアンナ医大病院)の演題「乳房超音波検査における精度管理用ファントムの作成」は,将来的に厚生労働省が奨励する「乳癌検診施設における装置精度の標準化」の一環を担うものでもあり,この精度管理こそが“匠の道具磨き”に相応するのではなかろうか(図1).また,同時に紹介された乳房ファントム(図2)では,乳腺を含む軟部組織やリンパ節ならびに骨の像までもが実際の人体から得られる超音波像と同様に描出されるよう工夫されている(図3).乳房超音波検査を実習してもらう際にモデルがいなくともトレーニングが行えるだけでなく,ファントム内に見落としやすい病変や誤りやすい疾患を仕組んでおくことで,より実践に近い体験ができる.
 技の巧みさだけでなく,それを人に伝え育成する巧みさを兼ね揃える“匠”を追究する方向性を強く感じた.

図1 精度管理用ファントム
図2 乳房ファントム
図3 乳房ファントムの超音波像
(医療科学通信2006年1号)
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