書 評

腹部エコーの実学
杉山 高,秋山 敏一:著
B5判・本体8,500円・医療科学社

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[評者]松原  馨
 (東京慈恵会医科大学附属青戸病院放射線部)
 先日,『腹部エコーの実学』を手にしたとき,感慨深いものがあった.それは,いまから17年前の1988年,当時の静岡県藤枝市立志太総合病院超音波科科長であった杉山t先生から送っていただいた『実践腹部エコー』を手にしたこととオーバーラップしたからである.思い起こせば,まだまだ超音波検査に関するテキストや教科書といったものが多くは出版されていない当時,診療放射線技師だけで出版した超音波検査に関する本として,驚きと賞賛の思いをもって拝見したことが昨日のことのように思い出される.

 もともと,杉山先生は,われわれ診療放射線技師のなかでは超音波検査に関する先駆的な存在のお一人で,さまざまな講演会や講習会で教えをいただいた.後には講習会の開催をお手伝いさせていただいたり,学会のセッションでご一緒させていただいたりと直接ご指導いただくなかで,先生の人となりと超音波検査に対する並々ならぬ情熱をひしひしと感じたことを覚えている.そのころ,先生のお使いになっていたレジュメがとてもわかりやすく説得力のあるものであったため,私はいまでも貴重な資料として保存しているのであるが,実は『実践腹部エコー』の原点はこのきめ細かなレジュメである.その集大成として17年前に出版されたものが『実践腹部エコー』であり,超音波画像・シェーマ・解説がバランスよく配置され,視覚的にも無理なく読むことができ,内容も理解しやすく書かれていて,いわゆるロングセラーとしての位置を確立しているという認識を持っていた.

 それが,今回大幅な改訂とともに書名も『腹部エコーの実学』と一新され出版された経緯を考えると,感慨もひとしおである.自序のなかで杉山先生が書かれているようにタイトルは変わったが,本書の基本スタイルは変えていないというとおり,これまでと同じく基礎的事項・臨床でのポイントが見やすくわかりやすく配置され,読む側の気持ちを配慮したものとなっている.

 「腹部エコー」と一口にいっても,杉山先生は以前より,腹部超音波検査は肝・胆・膵・脾・腎を観察すればよいものでなく,骨盤腔・消化管・腹腔内・体表なども含めた全体を観察しなくてはいけないということを提唱されてきた.そのコンセプトで行われてきた基本走査が「“の”の字の走査」であり,さらに「“の”の字の2回走査」である.本書には,初心者のための基本走査から,貴重な症例と解説までが収められ,内容面でもさらに充実し,超音波を学ぼうとする学生・技師・研修医のみならず,すでに日常業務として検査に携わる技師・医師にも読んでいただけるもので,さらにいえば指導的な立場にいる技師・医師にも十分価値のあるものとなっている.

 最後に,藤枝市立総合病院を退職された現在でも,自らプローブを握り,新たな著作の出版に意欲を燃やす杉山先生の超音波に対する情熱にいまさらながら頭が下がる思いでいっぱいである.また,杉山先生のご指導のもと,超音波科を引き継いだ秋山敏一先生,その他スタッフの方々の尽力もあって,この『腹部エコーの実学』が誕生したことを伝え聞くに及び,ますます本書がより広く学生・技師・医師のための本であることを確信した.
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