インタビュー
診療放射線技師に知ってほしい画像診断―胸部―
編著者・櫛橋民生先生に聞く
診療放射線技師に知ってほしい
いくつかのこと

聞き手:編集部
――このたび,『診療放射線技師に知ってほしい画像診断―胸部―』が発刊されました.そこで,編著者である櫛橋民生先生にこの本にまつわるお話をうかがいたいと思います.最近わが国でも遠隔画像診断が増えてきまして,序論にも書いておられましたが,先生が日本全国のさまざまな施設から送られてきた画像をご覧になって,その質のバラツキに危機感のようなものを持たれたわけですね.それが,この本を執筆していただくひとつの契機になったとのことでしたが,その背景などからお話してをいただければと思います.

櫛橋民生 関連する商業ベースの遠隔画像診断会社から遠隔画像診断の立て直しを頼まれました.この会社のシステムは優れており,同一部位,同一モダリティの過去画像1回分は呼び出して,正確な比較読影が可能です.そこでは,多くの施設から一方的に画像が来てそれを読むだけで,例えば電話で撮影者を呼び出して「これでは困る」とか「ここはこうして」というやりとりができなくなりました.また,遠隔画像診断を依頼するほとんどの施設は,そこまでの指導を求めていないのです.画像だけではどういう施設かもわかりませんから,画像だけを見ると非常に驚かされることもあります.しかし,検査したCTやMRIを料金を払ってでも,読影レポートを求める機関は相当優秀だと思います.検査したまま,誰も責任を持って読影せず,放置されているところも相当あるのではと考えると,怖いものがあります.

――画像を送ってくるということは,その施設ではCTやMRIの適応や撮影条件を臨床医にアドバイスする立場にある放射線科医がいないわけですね.そういう施設は思ったよりも多いという印象ですか.

櫛橋 相当あると思います.われわれ放射線科医に外勤や遠隔画像診断の依頼をしてくる施設には放射線科医がいないわけです.そういうところは診療放射線技師がかなりの部分をとりしきっていますから,「MRIはこう撮像するのですよ」とか,場合によっては臨床の先生が「どう技師さん.これ異常ありませんか」というやりとりがあるかもしれないですね.そういう意味で,診療放射線技師の仕事というのは非常に重要になっていると思います.ある施設に私が読影に行ったときのことですが,ごく軽度のくも膜下出血を見たことがありました.それが夜診断したものですから,すぐ看護師さんに聞いたら,「その方は何度も頭が痛いといって来ているんです.このときは動けなくなったということで来ました」とのことでした.それであわてて,脳外科に移送したところ,動脈瘤があって手術になったということがありました.実はこの症例は検査終了後,主治医が診療放射線技師に異常の有無をたずね,異常なしとの返事をもらっていたのです.読影力をつけるのはいいことなのですが,責任が出てきますから,それだけ勉強も必要です.
 遠隔で送られてくる画像にはたいへんな差があります.CTやMRIの機種の能力の差ももちろん大きいのですが,運用する診療放射線技師の力も非常に重要です.主治医が求めているものに対して,どういう検査で何を答えとして出せばよいか知っている診療放射線技師の行う検査は当然良いものになります.
 CTとMRIのある300床ぐらいの病院で,診療放射線技師が忙しいというのもあって,MRI検査を臨床検査技師に移行したらそのままそちらがやるようになったということがありました.診療放射線技師が自分たちの仕事を奪われかねないという状況があります.診療放射線技師はCTや他の検査も知っているわけですから,「やっぱり技師さんが撮ったMRIは違うね」といわれればしめたものです.

――多くの診療放射線技師は,養成過程で臨床についての体系的な知識を身につけていませんから,現場で覚えていく部分がほとんどだと思います.そこらあたりで先ほどご指摘のあったズレを感じることがあるのではないでしょうか.

櫛橋 常に広い眼で画像を見てほしいと思います.例えば腰椎の検査で,横に写っている腎嚢胞がレポートにないと,見落としているといって書き直しを要求してきたりすることがありました.目的の検査部位のMRIが良好に行われていればよいのですが,たまたま眼に入った他部位の異常やnormal variationのみを強調してくるようなケースはよくあります.腎嚢胞を指摘しなかったわれわれもいけないのですが,そういうところではなくて,まず目的の部位の検査を確実に行っていただきたいと思います.

――診療放射線技師向けの本というとモダリティ別に分けられることが多いですね.この本は部位別,疾患別で分けています.診療放射線技師はどちらかというとモダリティデペンデントなところがあります.ローテーションで,一般撮影から,CT,MR,アンギオ,USまで全部回りますからひととおりのことはできるようになるのですが,そのうちに「CTは強いけれど,最近のMRはちょっと」ということも出てきますね.部位別・疾患別に分けられた画像診断を勉強するというのは全体を考えるきっかけになると思っています.

櫛橋 そうですね.部位別に分けるのがいいかどうかということは,実はなかなか難しいのです.本の場合はなんらかの基準で分けないといけないのでしょうが.マルチスライスCTなんかでは,胸部と腹部を分けること自体があまりなくなって,体幹を1回でやってしまうこともありますから,体幹に関しては部位があってないようなものかもしれません.本来,病気の本体がたぶんこのあたりにあるだろうということで撮影するわけです.肺がん疑いだから胸部なんだけれど,腹部の大部分まで撮影するのは一般化しています.そういう場合は,胸部主体の検査というふうに考えればいいだろうと思います.昔みたいに部位別でスッパリ分けるというようにはだんだんいかなくなるかもしれませんね.

 MRIは,全身用というのが最近出ましたが,部位別という考え方はまだ非常に強いだろうと思います.MRIが出たころは臨床医から「左手がしびれるから左手のMRIを撮ってください」なんてオーダーがありました.最初のころは笑いながらも撮っていましたけれども,いまは「先生,左手を撮ってもだめで,頸椎を検査されたほうがいんじゃないですか」っていうようになってはきました.放射線科医はそういうことも含めていいますけれども,いない場合は診療放射線技師がしっかり発言することが大事ではないですか.患者さんにとって無駄にならない,目的にそった検査をすることが第一ですから.

――部位別,疾患別となると,何を見たいかがメインになってきますね.診療放射線技師が勉強して良い画像を提供して発言していけば,臨床側からも情報が返ってくるということになりますね.

櫛橋 放射線科専門医がいるような施設だとさらに早くわかってくると思います.放射線科専門医がいなくても臨床医と診療放射線技師のコミュニケーションがあれば,よくなってきます.まったくそういうことのない施設ですと,お互い単独で進んでいって迷い道に入ってしまわないかと心配しています.そういう意味で,今回の本では,知識の整理を含めてざっと読める,タイトルにもあるように「放射線技師に知ってほしい」今日から役立つ画像診断の本を前書きから読まなくてもわかるようにということを心がけました.ざっと最初から読んでいただいてもいいし,必要なところを開けて読んでもいいようにしています.

――診療放射線技師が画像診断の勉強を始めるには好適だと思います.また,この本では電子カルテについて章を割いていますが,共通のコミュニケーションができることによってIT化もスムーズにいくと思われます.ITでいえば,周囲のことを知ってないと何も動かなくなる.画像でいえば,見えているのが何か知っておく必要がある.先生の施設では,画像をサーバーに入れる前に順番や左右,濃度調整などの調整をしていますね.このシステムを検像と呼んでいますが,それを診療放射線技師がやっています.

櫛橋 IT化に関しては診療放射線技師の占める役割というのは非常に重要です.大きな病院でも運用や構築をまかせていることも多いですから,やりがいがあるのではないでしょうか.勉強のしがいがあるところです.また,他の医者が構築したとしても,理解していないと運用で困ってくることになると思います.医者まかせでつくってしまうと,診療放射線技師の仕事量が非常に増えることにもなってしまいますので,口を出すところはしっかり出さなければいけません.
 当院のように,100パーセントの画像,特に単純写真をなるべく短時間(10分前後)でレポートをつけているところは検像がより重要になりますから,専属の診療放射線技師を一人おいています.一度画像サーバーに良くない画像を入れると,ずっとそれが出てきて大きな障害となります.例えば肺炎の画像が白っぽい場合,とりあえず画像サーバーに入れたとします.それを読影室で調節してから読まなければならない.それから電子カルテにもそれが出ていく.そうして,経過観察で胸の写真を撮ったときに,10回も20回もその白っぽい写真と比較することになります.ダメージが1回だけではなくて繰り返しになります.ということで,画像サーバーに入れる前にチェックをしようというのが検像システムです.フィルムのときには順序とか方向はシャウカステンにかけるときに並べ直せばいいし左右逆でもひっくり返せば済んでいたのですが,モニタはそれができないので検像が大事になってきたのです.そのあたりに気がついて検像を始めている施設も,東大はじめ,ほかにもいくつかあるのですけれども,読影医がうるさくいわないと,人手もかかるわけですから,わかっていてもなかなかできないところがほとんどです.なかなか難しいのですけれども,日本放射線技術学会も日本医学放射線学会も,最近はその重要性に気付き,2004年の日本医学放射線学会秋季臨床大会で合同のシンポジウムとして取り上げられました.個人情報保護の問題について考えてみても,フィルムは一つしかありませんからある意味楽だといえます.電子カルテとかモニタでの画像は便利な反面いろいろな人に見えてしまうわけです.そういう方面での確実なセキュリティも紙運用やフィルム運用とはまた違う意味での必要性が出てきますから,いろいろなところで気配りをしていかないと,せっかくIT化してもトラブルの原因になってしまってはなんにもなりません.
 ITについても画像についてもいえることですが,全体的なものを見ていろいろな問題点をチェックできるような人がいなくて,各部署が自分たちのやりやすいことばかり主張していると,全体的にはがたがたになったりして思いもよらない弊害が生じるということです.各科によって求めるものが違うのですが,それを診療放射線技師がハイハイと聞いていると,全体としてとんでもないものになってしまうこともあります.放射線科医がいなくても診療放射線技師が勉強していれば,診療所,病院のレベルは上がると思います.

――いい画像を出すためには,臨床の知識はもちろん,周囲の業務への理解といったものも求められてきますね.

櫛橋 そういう意味で,できれば診療放射線技師のための画像診断の教科書を出して勉強していただいたら毎日の検査も良くなるし,いい人はさらに良くなるだろうし,仕事も面白くなるだろうという気持ちが非常に強くあったわけです.そこにちょうど今回,御社からお話がありましたので,引き受けさせていただきました.
 まだ日本では勉強して良い画像を撮った人と何も勉強しないで同じように撮っている人との間で給料の差はないですけれども,そのうち必ず出てくると思っています.アメリカでスーパーテクノロジストという考えも出てきていますが,わが国でも医療情報に関してはスーパーテクノロジストというのをある程度認めようという方向を向いてきましたので,将来はそういう可能性もあります.それとやっぱり勉強をしている診療放射線技師は周囲の信頼も当然上がってくるだろうし,なくてはならない存在になってきます.

――診療放射線技師の皆さんが画像診断を体系的に学べるこの本に期待しています.本日はありがとうございました.
(医療科学通信2005年2号)
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