書 評

マンモグラフィ技術編
石栗 一男:編著
A4版・本体9,000円・医療科学社

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[評者]板谷 充子
 (みどり健康管理センター)
 2004年8月30日の朝日新聞に,「厚労省が検診用の乳房X線装置を新たに全国の自治体に500台,整備する方針を固めた」という記事が掲載された.その装置による検診の受診率を現状の約2%から50%以上に引き上げ,早期発見と死亡率の低減につなげたい考えである.確かに乳癌死亡率が減少に転じた米国では,50歳以上で2年以内のマンモグラフィ検査受診率が70%を超えている.わが国でも「健康フロンティア戦略の推進」プロジェクトにおいて女性の癌対策を重要な政策として取り上げた.その実践のためには,装置の適正配備とともに撮影する診療放射線技師,読影する医師の研修制度の充実が最優先課題となっている.

 この本の発刊はまさしく時代が要請したものである.編著者の石栗一男氏は自序で,日本放射線技師会で行っている生涯教育セミナーの教科書となるものを作成しようという目標から,長年温めていた構想を実現したと述べている.しかし,放射線技師の教育にとどまらず,乳腺の診断や検診にかかわる医師や他の職種にも大いに役立つ内容であることは間違いない.

 第1章に書かれた著者の言葉が現在のマンモグラフィに求められるすべてを語っている.「乳房において部分切除を行うということは,それまでの“癌があれば乳房全体を切除する”という,今で考えると安易な治療法から,“悪いところを切除し,正常組織を温存する”という治療法に変化したことを意味する.これは診断学に置き換えると良悪性の診断をすればよしとするものから,病変の範囲や性状を把握できる検査法や診断学が必要になるということである.今日,われわれが追い求める乳房X線検査の精度向上は乳癌検診だけでなく,このような点にもあることを理解する必要がある」.乳腺の診断に深くかかわり現在のマンモグラフィの変遷をずっと見詰め,またその精度を上げるために努力してきた著者の言葉は深遠である.

 この本を初めて手にしたとき,写真が多くて解説がていねいな本だと,まず,そんな印象で読み出した.1章1章に込められた執筆者たちのマンモグラフィにかける情熱がそのまま伝わってくるような内容に正直驚いた.従来乳腺の勉強に必要だった「あれと,これと,数冊の本」をテキストにしなくては学べなかったマンモグラフィの全体像がここにある.それが,浅く広くではなく.広く深い内容であることもすごいことだと思う.初心者が突き当たる「なぜ?」にていねいに答えてくれる本である.従来わかりにくかった品質管理や画像評価基準もポイントがわかりやすい.撮影法,追加撮影,読影とカテゴリー分類などの章は非常に写真が多く内容が豊富で病態との関係がよく理解できる.これだけの本を私たちの仲間である診療放射線技師が書いたのだということが誇らしい.そして,技術編ということは,次があるのだと確信し期待している.
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