【Special Report
第14回日本乳癌検診学会総会
乳がん検診を支えるマンモグラフィ その科学と芸術
・市民講座「マンモグラフィによる乳がん検診」を見聞して:中島  直
・デジタルとアナログ画像のメリットデメリット:小林  剛
・マンモトーム生検:高嶋 優子
・30歳代からの超音波検診:松原  馨


市民講座「マンモグラフィによる乳がん検診」を見聞して
大阪府立成人病センター放射線診断科
中島  直
 標記学会総会が2004年11月1日,2日に大阪国際会議場において開催され,翌日には市民公開講座として一般市民を対象としたマンモグラフィによるバス検診が行われた.この学会の特徴は,初日午前中の登録者の内訳(医師200人,医療技術者と行政400人)を見ても明らかなように,乳がん検診・診療に携わる各職種が参集し,目標に向かってそれぞれ違った立場から垣根を越えて議論できることであり,学会のひとつのモデルとして共感を覚えるものであった.
 市民公開講座については,昨今のマスメディアによる影響も相まって,予定人数120人に対し短期間の間に500人を超える応募があり,改めてマンモグラフィ併用乳がん検診に対する市民の関心,期待が感じられた.
 今回の検診では,保健師による問診,医師による視触診と自己触診法(breast self-examination: BSE)の指導が行われ,引き続いて検診車3台(大阪,京都,兵庫)により撮影が行われた.
 特に興味深いことは,同じ検診車でもその所有施設の方針や地域性を考慮した工夫がなされていたことである.広範囲の地域を巡回する検診バスは,放医研型CT搭載検診車と同型の大型車両にマンモグラフィ撮影装置を2台搭載し,撮影スループットの大幅な向上とともに余裕の空間による受診者プライバシー,ワーキングスペースの確保などに優れていた.スタッフも運転士,診療放射線技師すべて女性で対応しているとのことであった.男性技師と女性技師の問題はさておき,2名の技師が同乗することはさまざまなトラブル発生時の対処などにも有効であり,安心感とともに,ひいては良い画像の提供につながるのではないだろうか.
 そのほかにも,普通自動車免許で運転可能な検診車は機動力のうえで有利と考えられた.また,車内に独立した暗室を設けたり,パソコンによるネームシステムを装備するなど,より確実なマンモグラフィ撮影を支援するアイテムの考案に努力されていることがうかがえた.
 今回,現場で受診された方々から多くのお話を聞く機会があった.3台の検診車を比べ,「どのバスが一番新しい装置なの?」「上手に撮影してくれるのはどのバス?」など,いかにも大阪のご婦人らしい単刀直入な質問を受けた.今後ともさらに精度管理のとれた高品質な乳がん検診を,全国レベルで格差なく推進することの重要性を改めて考えさせられた.

デジタルとアナログ画像のメリットデメリット
北里研究所メディカルセンター病院中央放射線科
小林  剛
 日本乳癌検診学会総会で開催されたセミナーのひとつに上記セッションがあり,活発な討論となった.
 現在,マンモグラフィ検診精度管理中央委員会(精中委)の示すガイドラインにデジタル画像に関する項目が追記され,検診分野においてもデジタル画像は市民権を得た感がある.しかし,それまでアナログ画像で行っていた診療・検診業務の現場では,少なからず困惑しているとの実情が報告された.われわれ埼玉乳房画像研究会が報告した内容も,この原因の一部をまとめたものであった.
 現在,乳腺診療や乳がん検診に携わる方々の多くは,アナログ画像にて読影方法を習得されたのではないだろうか.このアナログにおける読影手法をそのままデジタルに用いることは危険なようである.例えば,吸収率の高い腫瘤性病変はマンモグラム上「高濃度」な陰影として描出されるが,デジタル画像では腫瘤が透過して見えるため淡い吸収体のような印象を持ってしまう.これは,デジタルのメリットであるダイナミックレンジの広さがなせることであり,高吸収体をガンマカーブの中央,もしくはそれに近い濃度で,諧調を調節して描出するからである.また,石灰化では「淡く不明瞭な石灰化」などが強調されて描出されるなど,カテゴリー判定が変わってしまう可能性もある.
 このような特徴を持つデジタル画像であるが,近年のIT化などその恩恵は多大であり,アナログが主流であったマンモグラフィの分野においても普及していくのは明らかである.しかし,導入に際しては十分に注意が必要で,それを理解し,考慮した運用を行うことが必要である.つまり,アナログ画像で読影方法を習得したように,デジタル画像での読影方法の習得も必須ではないだろうか.

マンモトーム生検
東京都多摩がん検診センター放射線科
高嶋 優子
 標記学会総会でのマンモトームに関する演題は5題と少なく,検査にかかわる者として少しさびしく感じた.しかし,マンモグラフィ検診で非触知石灰化病変が多く発見されるようになり,マンモトームの需要はますます増え,今年4月からの保険適用に伴い,装置の普及も進んでいる.今までは確定診断への有用性や先駆的に行っている施設での使用経験に関する演題が多かったが,今後は使用施設が増えることにより,さまざまな演題が増えていくことが期待される.
 一言でマンモトームステレオ生検といっても,固定方法はプローンタイプ(臥位)とアップライト方式(座位)の2タイプあり,アップライト方式には刺入方法もラテラルアプローチ(横刺)とバーティカルアプローチ(縦刺)の2タイプに分かれ,それは利用するマンモグラフィ装置により決定される.
 当センターでは1年前からアップライト方式,ラテラルアプローチでのマンモトーム生検を行っている.アップライト方式では既存の装置が利用可能なため手軽に導入できる利点があるが,長時間に及ぶ乳房の固定と,座位の姿勢を保つのが受診者の負担になり苦痛が大きいという欠点がある.また,装置と受診者の体が干渉するため固定方法も制限される.ラテラルアプローチは薄い乳房に対して有効であるが,圧迫方向と刺入方向が直交しているため,刺入時に病変がずれやすいという問題点もある.最大の問題点は,病変部位や乳房の厚さや大きさに対する,アプローチ方法が確立されていないことである.当センターでも装置を設置した当初,実践的なマニュアルがないため大変苦労をした.現段階では各施設で経験を増やしながらアプローチ方法を模索しているのが現状である.
 今回われわれの施設は「困難症例を基にした刺入方法の検討」という演題発表を行ったが,質疑応答の際,「同じように大変苦労している」という意見も多くあり,各施設での問題点,工夫点を議論することができ,大変参考になった.
 今回のような各施設での情報交換の機会が必要であるとともに,今後「ポジショニングも含めたマンモトームガイドライン」の作成が強く望まれる.

30歳代からの超音波検診
東京慈恵会医科大学附属青戸病院
松原  馨
 今回の日本乳癌検診学会総会では超音波セッションの座長を務めたこともあり,超音波検診の動向が特に気になった.
 マンモグラフィに関しては,久道班,大内班によるプロジェクト研究によりその有効性が証明されているが,超音波に関しては「乳癌の臨床において有用な検査ではあるが,現在のところ検診における乳癌の死亡率減少効果について根拠となる報告がなされていない」とされており,早急な調査,結果の分析,有効性の確認が待たれる状況である.
 今回の発表のなかにも超音波検診の有効性を示唆する発表はあったが,それぞれ個別のスタディであり,システマチックなデータとはいえない.今後,このようなデータの統合・一元化ができると有用であると思われた.
 ちなみに,千葉県が2004年に「千葉県乳がん検診ガイドライン」を発表,そのなかで,30〜39歳では問診+超音波検診,40〜49歳では問診+マンモグラフィ(2方向)検診と超音波検診の交互実施,50歳以上では問診+マンモグラフィ(1方向)検診の実施の方向性を打ち出したが,今後はこれに追随する自治体が増えることが予想される.日本乳腺甲状腺超音波診断会議(JABTS)でも精度管理を含めた研究班を立ち上げる準備段階にある.さらに,神奈川県をはじめ各地で研究会が発足しつつある.このような報告を見聞きしたことで,乳がんの超音波検診への動きは急激に加速され,今後の展開に目が離せない状況となってきたことを実感した.

 
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