書 評

症例からみた胃X線読影法
上・下巻

中村 信美:著
上・下巻ともA4判・各本体8,500円・医療科学社

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[評者]木村 俊雄
 (財団法人労働医学研究会
    検診中央本部放射線科技師長)
 胃X線検査において診断価値の高い写真,いわゆる良い写真を撮影するためには撮影者の読影力が大きな鍵となることは,今までに何度となく言われ続けてきたことである。そして現在,その必要性は学会のなかでも論じられてきており,“技師読影”が机上の空論ではなく,現実味を帯び始めていることも事実である。

 しかし,数年前までは技師読影というと,「技師のやることではない」と拒否反応を示される方々も少なくなく,向上心を頭から制していた感もあった。これが技師の読影を消極的にしたり,中途半端なあるいは自己満足の意味合いの強いものにしたりと,大方の場合,技師読影というにはあまりにもお粗末な状況にあったことも事実であった。

 しかしこれを真っ向から否定し,胃X線検査に並々ならぬ情熱を傾けられ,良い写真を撮るため徹底的に読影に打ち込んでこられた技師がいる。それが著者である。そして著者が恩師として尊敬してやまない当時癌研究会附属病院の馬場保昌先生(現在,早期胃癌検診協会)の「病変がどのような組織学的な所見で成り立っているかを読影できるようにしておいた方がよい」という一言,これが著者のX線所見と癌組織型別の比較・解析への飽くなき勉学へとつながり,今日の著者の読影の起点ともなっていると自序で述べられている。

 さて本書『症例からみた胃X線読影法』上・下巻は,症例数242と圧倒的な数を誇る。その一例一例にミリ単位の詳細な読影がなされ,またその成因についても組織学的に根拠を述べられている。ここまで技師が書き上げたものは今まであっただろうか。出会ったことがない。また,病変描出のための撮影手技や読影に必要な用語や知識の解説が多くの頁を割いてなされるなど,溢れんばかりの内容となっている。それだけでは終わらず,著者が本書のなかで最も言いたかったことの一つでもあると思われるX線写真の重要性,つまりルーチン検査時の写真と精密検査時の写真が比較でき,正確な読影を実施するためには,いかに正確な写真が必要であるかということを各症例から具体的に理解できるようになっている。頁を進めるごとに本書のなかに引きずり込まれてしまう。贅沢な本である。

 現在,胃X線検査はその精度が問題視されている。われわれ放射線技師に課せられた使命は大きいはずである。より高い精度へ向けての努力,その精度の高い状態をいかに次世代に継承していくかなど,今真剣に取り組まなければならない時期に来ていることも確かである。そのための技師読影は正に不可欠であり,また制度化しなければならない課題であると考える。

 このたび上梓されたこの本は,何度も多くのページを繰ることになるであろうし,また座右の書としてお薦めしたい1冊である。 
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