● 対 談 ●
マンモグラフィ技術編
発刊にあたって
石栗 一男 松原  馨 根岸  徹
鈴木 聡長 藤井 直子 鈴木真紀子



石栗 一男
石栗一男:今回,まず感じたのは,これだけのことを書くためには,その裏に知識として持っていなければならないことがいっぱいあるなあということです。著者はそれぞれのエキスパートですが,読者も興味があるところはその奥を読むので,その結果を想像すると怖くなります。
松原 馨:読者にとって,この本の使い方はさまざまあると思いますが,今後の研修会や講習会にはこの本であるレベルまで引き上げられた人たちが集まってくるわけですから,講師はそれに対応するためにさらにレベルアップを考えなければいけないということになりますね。
根岸 徹:この本の使い方としては,臨床現場に必ず1冊置いてあって,わからなくなったらすぐにパッと開けることですね。今,そういうかたちになってきたんじゃないかと思っています。

石栗:できあがってみると,何か怖いものだなという印象を強く感じます。今まで一般的に言われてきた以上の内容が,一人ひとりの力によって調べられて,それで一人ひとりが自信を持って書いているわけです。これがメジャーになるのかどうかわからないけれど,読者にとってはメジャーですから,この本でつくられた知識によってこれからどのように動いていくのか,いろいろなところに影響してくるだろうという怖さがあります。認定試験もそうだし,受講生の知識もそうだし,あらゆる面で,これを読んだあとにどうなっていくのかというのは,未知の世界ですね。なぜそんな心配をしたかというと,結局,今まで出てきた乳腺関係の本というのは,ドクターが書いているものがほとんどで,そこに書いてある知識というものは,いわゆる臨床的なことがほとんどです。病理医は病理のことを書いているし,診断医はX線診断のことを書いている。そういうものがほとんどで,放射線技師が一つのまとまった本を書くということは,あまりなかったわけです。放射線技師のために放射線技師が,あらゆるジャンルに向けて情報を発信していけるような本というのは,初めてだと思うんですよ。だから本当にどういうように使われるのかが全然想像がつかない。ただ,私が序文に書いたように,自分が勉強するとき,例えば,私が乳癌の勉強を始めたときには何も本がなくて,日本語で書かれているのは月刊誌の数頁の記事だったんですね。やっといろいろなことが書いてある本というのが出せるんだと,なんとなく歴史というか時間の流れを感じます。10年ほど前は本当に他人事でした。こういう本があったらいいなと,1冊買ったら全部書いてあって,そうなればいろいろなところを探す必要はないし。それがとうとうできあがったのかという印象です。

根岸:マンモグラフィについてはそのとおりだと思います。例えば,頭部だったらアンギオからCTからMRから全部入った本はありますが,なかなかこういう本はできないですよね。


松原  馨
松原:著者はいろいろな思い入れを持っていたかもしれませんが,ここまで多くの内容を盛り込んでいくと,ややもするとダイジェスト版みたいなものになりかねないのですが,この本を見ると一つひとつ読みごたえがあって,なおかつこれだけ多くの内容が集まっているというところが,すごいんじゃないですか。何冊もの本にあたらなくても,ある程度の情報はこの一冊で完結できるという,そのすごさがあるかなと思います。

石栗:みんな書きたいことがいっぱいあるので,すべてを盛り込んでしまおうという気持ちがありませんでしたか。

鈴木聡長:一番思ったのは,画像ひとつとっても,そこにかかわる因子というものがこれほど多いのかということです。すべての集約としての画像,1枚の写真というかたちになるので,例えば,マーゲンや一般撮影系では,ここまでいろいろな要因が積み重なって画像を構成するということは普段考えないと思うんですよ。

根岸:学校で教えていることなのですが,「放射線物理も必要だし,解剖学ももちろん必要,病理学も必要だと,それらがわかって初めて1枚の写真が撮れるんだ」という話をします。マンモは今,そこのところをかなりやっていると思うのですが。

石栗:そういうものが重要だということは,みんなの認識として広まっているし,それとやはり,X線にしてもフィルムにしても特徴的なので,そこを知らないとダメだということで,こういう内容になるわけですが,消化管も実は同じです。消化管では,フィルムや自動現像機の調整ということを考えなくてもフィルムの特性上そこそこの写真が出てくるから,撮影法とか診断だけを論じてきたわけです。日本放射線技師会消化管画像研究会の『注腸X線検査の標準化』(医療科学社刊)が出たとき,私は画期的なことだと思いました。同じ施設にいた腰塚慎二さんが原稿を書いているところをずっと見ていたのですが,あれもやはり初めて放射線技師がつくった消化管の本という感じがします。私が考えていた基礎的なことも入っていて,全体であそこまで細かく書いてある本というのは,なかなかないという印象ですね。それに負けない乳腺の本をつくりたいというのもありました。今,こうやってずっと見ていくと,納得のいく本ができたという感じです。

鈴木(聡):当初は,初心者のためにつくる本だったはずですが,皆さん本当にマニアックな部分を突っついたりして(笑)。


藤井 直子
藤井直子:私もそうですが,読み出すと,ハマル人は一気にハマルと思います。

石栗:今まで書かれていた内容についても考えています。例えばポジショニングにしても,従来の本ではポジショニングの最後の形が出ているだけで,「轆轤で土をいじるのと同じ手の使い方をするんだ」のように,非常に抽象的な言葉で表現されていて,そこには「だから何故」という理論がなかったんです。それを,考え方を示しながら具体的にどのようにするかということを初めて書いた本です。どこにも書いていない,誰も言っていなかったことを初めて書いています。ポジショニングの仕方というのを最初から全部書いてある本というのは国際的にもほとんどないと思いますよ。そういうものが新しくつくられていますので,これは本当に王道を行っていけるのかどうか。

鈴木(聡):この本は1回読んでわからないところがあっても,やっぱり1冊は持っておきたいというような魅力のある本ですね。いつかは必要になるという内容を含んでいると思います。

松原:ある意味,辞書みたいなもので,すぐ傍に置いておいて困ったら調べる。そういう意味では,手軽にある入門書では決してないと思いますね。

石栗:自分の感覚では,マンモグラフィというものを実際に勉強するとしたら,「本を1冊買いました。そこに何かいっぱいいろいろなものが書いてあるらしい。1冊でまとまって安上がりだから」といって読み出して,10ページぐらいで,あれ! って(笑)。初めてマンモグラフィの勉強する人は,そうなってしまうんじゃないかなという気がするんですけど。

松原:今までどこの講習会でも,終了後に受講生が質問に来ます。受講生にとっては,自分の撮り方が本当にいいのかどうか常に不安があり,ほかの人がどう撮っているかもすごく興味がある。だからポジショニングの仕方を見せるといつまでも人が溢れますよね。しかしいろいろな講師のポジショニングの仕方を聞いても,実際にあとで本を読んでみると,どこにもそういうことの裏付けが書いていないということがある。そういう意味では,他に絶対に書いていない内容なので,すごくいいと思いますよ。


根岸  徹
根岸:他に書いてないということに関していえば,私が担当した部分は,実際に使用していた推奨機のX線管を切断して説明しているのでわかりやすいと思います。

石栗:トラブルシューティングでも,考え方の筋道は見たことないですね。私はこの本をつくるとき,まず一番最初に目玉にしようと思ったのは,やはり品質管理とポジショニングの2つで,これをなんとか一般の人たちがわかりやすいように構成したいと思っていました。しかし,できあがってみるとすべての章で理論立てた,わかりやすい,役に立つ内容にできたと思えます。

藤井:品質管理では,ACRのマニュアルを基にした方法を組み入れました。それで納得できないことが出てくると,明日もう1回やろうと。「でもやっぱりこれは違うよ」「私はこちらのほうが使いやすいと思う」みたいなある程度注文をつけて,それを共著の竹川直哉さんが練り直して持ってきて,「もう1回」ということを繰り返しました。同じ施設ですぐそこにいるので,「あのページはやっぱりあるほうがいい」とか,使いやすくて見やすいようにレイアウトや内容もできるだけ簡潔にしました。実験の記録をとっていくには,やはり文章でダラダラと書かれるよりも,ある程度短くて,できるだけ1行で終わる文章にしようということを心がけました。

石栗:あとやっぱり品質管理をやるときには必ず必要な表などがあるはずだから,それを使いやすいようにレイアウトしてくれと。自分たちがいろいろなテストをするときに,ACRの和訳本を開いてしまうんですね。同じことが書いてある本もあるけれど,どのように書かれているか,どのように頁立てされているかということで,使い勝手が全然違うという印象がありました。だからACRのマニュアルを竹川さんに見せて,このようにしてほしいんだとお願いしました。

藤井:竹川さんは文章を整理し,簡潔に表現していく点はすごい人だと改めて思いました。ときには文章を短くしすぎてわからなくなって,それを補足していくとか,そのあたりに時間がかかりました。

石栗:逸見典子さんと私の担当したポジショニングは,これを読みながら,その場でポジショニングをしながら説明してみると,すごくよくわかるということでした。それで,「やはり実習は欠かせないんだね」という話になったんです。

松原:その方が絶対,一目でわかりますものね。それを言葉で全部説明しなければならないとしたら,もっとくどくなってしまいそうですね。

石栗:だとすると今後,この本が出てからのポジショニングのあり方というのは,やたら御託を並べるよりも,ここにこういうふうに書いてあるのは,実際にはこういうことを言っているんですよという,実習を主体としたほうがいいのかも知れないですね。だから大雑把な話だけをして,あとは実習という使い方になるのかなと思いますね。だから結構,ポジショニングは気合を入れたんですが。結局,みんながあまり考えていないところがいっぱいあるんです。だからそれを書きたいと思うのですが,みんなが考えていないことだから,やたらややこしくなるわけです。簡単にするには,やっぱり要約して書いたほうがいいですね。そのあたり超音波はいかがですか。

松原:超音波でも,今までの本にはどこにもポジショニングなんて書いていないですよね。私がいつも言っているように,ポジショニングについてはきちんと書くべきだと思います。スキャンの仕方も腹部のようにグイグイ押す人がまだいるんですね。あとは,内側,外側でスキャン方法が微妙に違いますけれども,今まで結構無視されているというか,どこにも書いていないそういう内容を書いています。  超音波検査でもカテゴリー分類が出ていますが,超音波画像というのは悪性・良性がオーバーラップするところがたくさんあります。デシジョンツリーは,これはこっちという感じで最大公約数でスパスパと振り分けていくものなので,マンモグラフィのカテゴリーと同じパターンのツリーができるはずなのに,超音波では,ここはこれで分かれるかなという疑問がいろいろなところで出てきますね。  今,日本乳腺甲状腺超音波診断会議で新たなガイドラインができて,それが日超医のほうにフィードバックされ,新しい診断基準が出てきています。高輝度エコーがポップコーン様の粗大なものなのか,それとも本当に微細なものなのかというので,ある程度カテゴリー分類が分かれるというのは納得するのですが,そのあたりは前の診断基準とは違うなと思います。

石栗:やはりマンモグラムが先に浸透してしまったので,それにある程度添うようなかたちにつくってくれたほうがいいですよね。超音波というと,放射線技師にしても臨床検査技師にしても,あるいは医師もエコーをしなければいけないみたいな人たちがからんで,いろいろなものをつくっていってしまって,何か全体の整合性がとれないような状況がありましたね。

根岸:こういうかたちになるとうれしいものではあります。最後の最後に写真を入れ換えてとかで,満足いくものができたかなと思います。上司などに見てもらって,アドバイスを受けたのですが,これだけまとまっているんだったら今度は自分の本のほうにこういうことを書いてほしいということを言われました。


鈴木真紀子
鈴木真紀子:今回,校正で参加させていただいたのですが,難しいところから入ってしまったので(笑)。深いところまで掘り下げて書いてあって,それが15章もあるというのはすごいですね。この分野はこの本というように書いてあったのが,1冊で見られるのはいいですね。私は持ち歩くのが苦にならないタイプですが,これ1冊だけあればいいというのは本当にいいですね。

鈴木(聡):今回,臨床画像評価とトラブルシューティングを担当しましたが,トラブルシューティングというのは,本当に分野が大きくて,項目をあげただけでもとんでもない量になりました。それを一つひとつの項目についてデシジョンツリーをつくっています。今までどの本を見ても,トラブルについては詳しく書いていない。受講生と今でもメールのやりとりをしているのですが,周囲に聞ける人がいないんですね。こういうような本がその代わりになるということがありますが,まだ指導者的な先輩が少ないということですね。私の施設は集団検診をやっているという背景があるので,写真をたくさん見る機会があります。今までいろいろなトラブルが生じて,それに対応しているうちに身についていったことが今回の集大成につながったのではないかと思います。文章にするのはなかなか難しかったのですが,良いものができたんじゃないかと思いますよ。

松原:技師一人の施設などでアーチファクトが出てしまったとか,何が原因で写真が悪いのかもわからない場合,その追究の仕方もトレーニングを受けないとやはり難しい。講習会などでは「これは,どう考えますか」というようにみんなで考えたりしますから,とりあえず考え方の道筋をみんなで体験できますよね。原因が処理液なのかどうか,それともX線の発生側なのか,そこの道筋をつくってあげるということは,とても大事だと思いますね。実は原因が発生側なのにいきなり液にいってしまって,全然関係のない迷い道にどんどん入り込んでしまうこともあるわけですから。

藤井:ちょっとやり出すと,トラブルシューティングのところばかり折りじわがついていきますよ(笑)。今日こっちは大丈夫だった,明日は別のチェックをしようというようにやり出すと,トラブルをどう解消していったらいいのかというのは,すごく役に立ちますね。もちろん基礎知識は大事ですけれど,それをいかにするかという応用編になっていますから,読むんじゃなくて,最初ツリーを見てその項目を読んで,装置はどうなっていてとか,フィルムはどうなっていてとか。

鈴木(聡):それで実際,おかしい場所がちゃんと自分で突き止められて解決できたと。写真はこう変わりましたと,やはりそうなったときに,本当にありがたく感じるんじゃないですかね。

石栗:そういうときはぜひ連絡してほしい(笑)。


鈴木 聡長
鈴木(聡):今回,トラブルシューティングについて自分なりにこだわったところは,この章だけで索引をつくったことです。事象別の検索の仕方,原因別の検索の仕方の2種類を載せているのですが,調べたいときにその引き方がわかりやすいようにするというところにこだわりました。それで全体の索引はつけないで,章のなかだけで消化できるようなものとして考えてあります。

石栗:だから本当に今までにないものじゃないですか。まったく最初からつくらなければいけなかったでしょう。みんなそういう内容だったんじゃないですか? 装置については,スペクトルだのなんだのということは書いてあるけれど,全体について詳しく書いてある資料というのはどこにもなかったですよね。

根岸:装置関係の本を見るしかないんですよね。そういう本というのは,臨床現場に入ってしまうとなかなかないでしょうしね。


石栗:やはりこの本は,どの分野のエキスパートであっても,まだまだ知らないことが書いてありますよね。私はここが得意だといっても,開いてみたら知らないことばかりだったという部分も出てきそうですね。

 本日はありがとうございました。


(医療科学通信2004年4号)
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