Med.Sci.Report

討論会「ICRP2005年新勧告の論点」
埼玉県立がんセンター放射線技術部 諸澄 邦彦
 2004年10月12日,東京大学・山上会館において保健物理学会主催による標記討論会が開催された。ICRPが2005年の刊行を目標に放射線防護体系に関する新しい基本勧告の策定を進めているのを受け,新勧告案の論点を整理し,放射線に関係のある多方面の専門家の意見交換の場として計画されたものである。

 最初に放医研・藤元が,従来,放射線防護の3原則は正当化,最適化,線量限度と位置づけられてきたが,2005年新勧告案のなかでは,正当化は防護体系の柱ではなく前提条件であり,正当化された「行為」に対して数的制限(拘束値,線量限度)と最適化を適用し,正当化,数値による勧告,最適化の順序で新勧告案の防護体系は示されている,とその概要を解説。

 自治医大・菊地は,新勧告案では,放射線防護の最適化を決定する過程において,ステークホルダーの関与が重要と提唱しているとした。ステークホルダーとは利害関係者と訳され,放射線の被ばくにかかわる従事者,放射線施設の近隣住民,消費者(患者),行政,保険業者,NGOなどが予想され,これらの人たちから意見聴取をすることによって信頼関係を築くことが放射線利用の発展や放射線管理(防護)の解決につながると言う。

 さらに大阪大学・山口は,医療被ばくにおける防護の最適化は,診断情報の損失と患者の線量の低減との定量的な均衡をとることが難しいため,必ずしも患者の線量の減少を意味しないと分析。しかしながら診断参考レベルの使用は,線量が過大ではないことを調査するためのリマインダー(助言者)として有用であり,防護が十分最適化されているかどうかを確認する手段としても有用であるとした。

 なお,現行の放射線防護体系はLNT(直線しきい値なし)仮設で構築されているが,医学・公衆衛生の分野で放射線防護における量・反応関係の分析やリスクベネフィット解析を行おうとすると,必然的に健康影響を意味するリスクという概念の定量的な方法が必要になるとして,「望ましくない結果が生じる可能性」の認識の度合いが個人によって異なるリスクコミュニケーションの問題が生じるとの,大分看護大・甲斐の発言は印象に残るものであった。

(医療科学通信2004年4号)
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