書 評

肺感染症と画像診断
佐藤哲夫:編著
B5判・本体3,000円・医療科学社

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[評者]多田 信平
 (駿河台クリニック画像診断センター)
 題名からとっさに感じたのは,肺の感染症の画像診断所見の詳細を論じた一種の画像診断の教科書であった。しかし,本書は肺感染症そのものを概説したもので,当然のことながら胸部単純X線写真を含む画像診断はその診断に主要な位置を占めるということである。画像診断は所見にも触れてあるが,むしろどのようなときに画像診断が必要となるか,何故必要なのかに力点が置いてあるように見える。 

 佐藤哲夫氏の序文にあるように,研修医,レジデント,呼吸器を専門としない医師,診療放射線技師,看護師を対象としたとあるが,B5判全96頁の本書は最近の呼吸器に関する知見を実によくまとめてある。総論5項目を含めて全37項目からなるが,それそれの項目が医学生に対しては,「何々について述べよ」式のいい問題となる。そういう意味ではよくまとまったノートとも言えるかもしれない。総論のなかの,「市中肺炎」,「院内肺炎」では起炎菌の頻度や画像所見,検体検査などが,わかりやすく書かれているし,各論に続く院内感染対策に関する2項目,「感染経路と院内感染の病原微生物」,「院内呼吸器感染対策」は,病院で診療にたずさわる研修医,さらに広くコメディカルの人々にとって,必読と言えるのではないか。

 各論26項目は主要な肺感染症の概念,疫学,症状,検査,画像,診断,治療などの細目にわたって,ほとんどが2〜3頁,肺結核症だけは9頁を費やしているが,まったく要領よく記述されている。感染症の項目を少しあげれば,肺炎球菌肺炎,インフルエンザ肺炎,ブドウ球菌肺炎,レジオネラ肺炎,クラミジア肺炎,誤嚥性肺炎,サイトメガロウイルス肺炎,肺アスペルギルス症,肺カンジダ症,肺放線菌症,肺ノカルジア症,非結核性抗酸菌症,SARS,びまん性汎細気管支炎,などとなる。

 慈恵医大病院の呼吸器内科診療部長として診療に教育に多忙のなか,このような好著を上梓された佐藤先生に全幅の敬意を表するものである。
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