書 評

IVRの臨床と被曝防護
中村仁信,富樫厚彦,諸澄邦彦:編著
B5判・本体4,500円・医療科学社

詳細はこちらへ△
[評者]上松瀬 勝男
   (日本大学総合科学研究所教授)
 IVRは循環器科医が最も頻用する治療法のひとつである。血栓溶解療法,PTCA,DCA,Rotablator,Stentなど次から次へと新しい器具が開発され,施行されている。平成9年度の厚生科学研究補助金健康科学総合事業によるわが国の冠インターベンション(PCI)に関する調査(竹下彰班長)では年間約11万件の施行であったが,平成12年度には14.7万件(34%増)となった(藤原久義班長)。

 わが国では約1400施設で冠動脈造影ができ,その84%がPCIを行っている。PTCAの問題点は,40%前後の再狭窄のために再々PTCAが行われ,手技も徐々に複雑病変へと適応をひろげたり,血管内エコー法,内視鏡での観察など,X線透視時間も長くなり被曝線量も多くなってきたことである。

 しかし,これらの手技は慣れた医師が行えば被曝線量も少なくてすむが,常に,初心者への教育も必要であり,施設間のレベルも一定とは限らない。治療に熱中するあまり透視時間が長くなることが容易に想像される。放射線被曝による皮膚障害が問題となった。この時期に本書が発刊された。被曝防護の啓発になれば患者も術者もIVRの恩恵だけを受け,そのマイナス面を避けられることの意義は大きい。わが国のPCIの特徴は少数例の施行施設が多く,勢い不慣れによる長時間被曝,あるいは被曝を念頭に入れてない点にあるかもしれない。本書では米国FDA,日本医学放射線学会,国際放射線防護委員(ICRP)からの勧告,エッセンスが集結されており,読めばいずれもなるほどと納得できる項目ばかりである。

 第68回日本循環器学会では初めて「PCIと放射線障害」を取り上げ専門家に啓発的ご講演をお願いした次第である,今後も継続したい。本書にも記載してあるように皮膚障害の報告例は氷山の一角と見るべきであろう。本書は頭部,心臓,腹部領域における塞栓術,血管形成術,アブレーションなどの知識整理にも役立ち,それぞれの領域の被曝と防護について第一線で活躍中の術者によりわかりやすく解説してある。被曝防護のバイブルとなるものと信じている。
↑このページの先頭へ