書 評

肺感染症と画像診断
佐藤哲夫:編著
B5判・本体3,000円・医療科学社

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[評者]吉澤 靖之
 (東京医科歯科大学大学院
  医歯学総合研究科統合呼吸器病学分野教授)
 文明の発達により世界中の国境が概念的に消失し,いわゆるインターナショナリゼーション(米国ではグローバリゼーション,国際化)と言われる時代となり,それに伴うヒトの国家間交流も夥しい時世となりました。文化の交流は人類の進歩に寄与しましたが,国際化は一方では伝播する病(主として感染症)の共有化を生み出し,ヒトとヒトの間ではSARS,鳥と鳥,鳥とヒトの鳥インフルエンザと政府も各個人も対応に苦しんでいる日々となりました。

 以前から,世界中を脅かす特定な状況ではない日常的な感染症は,結核やインフルエンザ(スペイン風邪)など呼吸器感染症が中心となってきました。

 また日常臨床で遭遇する感染症としては,感冒,インフルエンザ,肺炎,結核など呼吸器感染症が多いと思います。胸部X線写真は一番身近な検査で,かつ苦しんでいる患者の目前ですぐ説明する必要があり,読影に習熱することが大事です。この点,自信がないと「大したことないので様子を見ましょう(少しは問題あるとの含み)」,「あまり問題ないので様子を見ましょう(少しは問題あるとの含み)」となります。これを「肺炎はなく気道の感染症だけなのでこの薬で経過を見てください」,「肺炎ですが現在は外来で治療可能と考えます」と説明できるようになる努力が必要です。

 このたび,呼吸器感染症の画像を中心とする本が出版されることになりました。感染症については薬剤の罹列,菌の性状や病態についての記述が中心となり,読者を引きつけることは非常に難しいテーマでした。今回,自分の経験を画像から疾病を体系立てて学問としている本が上梓され,若い先生方にも大変読みやすく,自然に画像と知識が身につくことと思います。

 感染症の知識はどうしても細菌と病態に目がいきがちで画像は付録といった感じの本が多いなか,自身の経験症例の画像を呈示している点,新しい視点からの感染症の本だと思います。画像がどうしてそのようになるかの視点から病態を記載してあり,画も読者の頭に入りやすくなっています。また,実地での経験が中心であり,他の本の知識の受け売りでない点も特記すべき雰囲気の本としてできあがっています。

 日々臨床で苦労している著者の姿が目に浮かぶ本であり,ぜひ若い先生方,専門外の先生,診療放射線技師,看護師には読んでいただきたいと願っております。
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