放射線技師にとっての遮へい計算の意義
『医療法における放射線遮へい計算申請実務マニュアル』
刊行に寄せて
前・国立病院療養所放射線技師会会長 佐々木 由三
 医療は日進月歩でその様相が変化し,医学の進歩は依然としてめざましく衰えることがない。医療界をとりまく社会も変わってきている。病院の選び方,病院の経営充実度などが各種メディアにより報道されているが,この選別の動きはある意味では当然と言える事態である。個々の病院にも統廃合の波が急速に押し寄せている現状では,国公立病院も民間と同様の経営を余儀なくされるなど,従来のやり方を継続することは難しくなってくるだろう。

 経営状況を判断したうえで,今後さらに大きな病院の再評価がなされるであろうが,その経過のひとつとしての病院統合,またはあってはならないが病院廃止をしなければならない事態もくるかもしれない。病院を閉鎖することは非常に大変なことである。医療放射線を扱う唯一の専門職であるわれわれ診療放射線技師にとっても,対岸の火事とばかりに傍観しているわけにはいかない事態が迫ってきている。

 今回医療科学社より刊行が予定される『医療法における放射線遮へい計算申請実務マニュアル』は,従来の病院を閉鎖し新しい病院を建設するにあたり,著者自身が経験した内容を記している。一分野にとどまらず,豊富な経験と長年培ってきた知識で放射線すべての分野を集大成したもので,今後皆さんが同様の立場に立たされたときに非常に役立つものとなっている。特にエックス線防護,放射線治療,核医学分野を細分化してやさしく解説しながら実務にすぐ応用できる内容になっている。

 放射線の申請,許可はどちらかというとある程度の知識を有する人であっても解釈の仕方や記述の仕方がなかなか理解できないものであるが,この書にはそこが細かく説明されている。初心者はもちろん,ある程度の知識を持っている人でも実務書として有効に活用することができる。

 病院経営自体が各職種のなかでどのように理解されて,医療環境をどう高めていくかが最重要課題になっているさなか,遮へい計算の持っている意義をさらに展開・発展させながら,診療放射線技術の向上につなげたいものである。

 病院の規模,病院の診療形態,地域の医療の要望といろいろの制約のなかで最も有効な放射線施設,ひいては画像診断施設の設計もなされるべきである。実際に,間取り,照明,色彩,あらゆる環境を考慮しながら病院のトータルな設計が行われている。一方,医療を受ける立場からいうと過剰な放射線防護は必要ないであろう。にもかかわらず,どこが最も有効な防護の値なのか理解できない関係者がひとりいるだけで,最終的には莫大な経費と時間を費やすことになるかもしれない。このようなことは,今後大きな課題であるし,医療の有効利用を最小限の資金で確立できればこれに勝るものはないと言えよう。そのとき,この書を有効に活用していただきたい。

 病院全体の経営をどうするかということがまず大前提として存在し,その延長線上には,放射線部門の損益分岐点はどこかということが常に問われるだろう。「あてがわれた施設であるから」という無責任なことを言っていられないことは重々理解しているものの,今後はより働きやすい,高効率な施設が誕生することを願うばかりである。

 この書は,実際に従来の病院を閉鎖して,新しい病院を立ち上げた著者でなければ記されない経験が凝縮されているばかりでなく,診療放射線部門を任された人でなければ気づくことがない内容を含んでいる。特に,忘れてならないのは,医療を受ける立場の一般市民に対する専門職種としての被ばくに対する姿勢を再確認する資料ともなることである。

 一枚の写真撮影にどれだけの被ばく線量があったか。その施設環境はどうだったか。説明の資料としても十分生かされることであろう。自分たちの職場のことは自分たちが一番知っている必要がある。豊富な資料をもとに解説された本書を有効に活用して,申請のための本にとどまらず,さらに飛躍して作業の動線を再確認し,今までは従事者の使い勝手に重点を置いていた装置の設置を作業環境と相手に与える心境までも考えていくようにしていただきたい。

 一冊の本が今後の医療界を見直す機会になるかもしれない。もし,遮へい計算に苦手意識を持っていたならば,この本を利用して苦手意識を克服し,医療のなかの放射線がどれほど安全性を確保しているかということを実感し,今後につながる有意義なものになることを確信してほしい。

 このような労作を著した著者に感謝を申し上げるとともに,われわれ診療放射線技師はこれを大いに活用しながら新しい放射線施設を開拓していかなければならない。私もみんなと一緒に頑張りたいと思う。
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