Med.Sci.Report

放射線カウンセリング学会
―JCO事故救援活動を通して―
国立がんセンター中央病院 放射線診断部 小笠原 哲
 2003年11月21日,大阪国際会議場において標記学会が,全国放射線技師総合学術大会のなかで開催された。この学会のシンポジウムにて発表された「JCO事故救援活動を通して」を取り上げてみたい。
 1999年9月30日に東海村において臨界事故が発生し,付近の住民に対し多大な健康的被害と心理的被害を与えたことは記憶に新しい。この事故発生直後から派遣され,住民の健康調査と放射能汚染測定にあたってきた藤本(国際医療センター)から,放射能・放射線に対する住民の心身状態についての事例報告があった。
1.五感に感じないので,大丈夫だとは思いつつも不安が消えない。
2.不安感が恐怖心に変わり,心身状態に異常をきたしてくる。
3.テレビ・ラジオなどマスメディアの報道が不安感をあおる。
4.妊婦に対して,本人だけで赤ちゃんを見なかったので,出産に対する不安が増大した。
5.サーベイメータを見て不安が高まる。
6.汚染測定の訓練を受けた技師のところに,住民が殺到した。
7.高齢者は,戦争体験(広島・長崎)と重複し,恐怖心が増大しやすい。
 これらの反応には納得がいくが,次の事例報告には考えさせられた。
 それは,放射線についての教育訓練を受け,サーベイメータの利用目的と使用方法を知っている原発の職員が現場にやってきたときの言動についてである。普通に考えれば協力が期待できるところであるが,その職員が実際にとった行動はサーベイメータを手にとって確認し「こんなものでわかったら終わりだ」と周りの人々にわかるような大声で叫び,「俺はいいから他の人をみてやれ」と言い放ち立ち去ってしまったとのこと。
 この事例にしても1〜7の事例にしても,心理的影響・負担は多大なものがあるということを理解しながら救援活動にあたる必要性が強調されていた。
 こういったことから,救援活動にあたる放射線技師には,放射線に関する知識と放射線測定にかかわる技術,そしてカウンセリング知識を持ち合わせた人材が要求されるが,その人材の確保,育成のために,当学会の重要性が認識させられた。
(医療科学通信2004年1号)
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