書 評

X線CTの先駆者
高橋信次

岡田 光治:著
医療科学新書 本体1,200円

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[評者]鈴木昇一(藤田保健衛生大学衛生学部診療放射線技術学科助教授)

 本新書は,1995年に刊行された『X線CTの先駆者―高橋信次伝』中の幼少期の思い出を綴った箇所を省き,X線CTの先駆者としての偉容を前面に出すかたちで再構成されている。
 高橋先生はCT装置の出現に遡ること20年以上前に,人体の横断面の画像を非常にユニークな発想でX線画像として公表している。しかし,このCTの基礎となる研究に対してノーベル賞は与えられていない。今年のMRI装置開発にかかわるノーベル医学生理学賞について,その理論を考えた研究者が異議を唱えたことは記憶に新しい。高橋先生も同様に,理論が高橋トモグラフィとして認められているにもかかわらず受賞はならなかった。著者同様残念である。しかし,本人はそれほど気になさっていなかったようである。功を欲しない人柄が本文中に散見される。
 診療放射線技師教育の講義に際しても,初心者に理解できるような丁寧な講義に感銘を受けた記憶がある。30年以上前の話である。回転横断撮影は,学生実習中に名古屋大学医学部附属病院で使用されていた。某大学病院では,10年ほど前までは現役として放射線治療計画に使用されていた。装置はダイナミックで非常にメカニカルで,見ていて日本人の発想でつくられたものとは思えなかった。この装置の開発には多くの苦労があったことは,装置各部分のユニークな機構を見れば一目瞭然である。本書を読んで,CT先駆者として評価されるべきであるという著者の主張が伝わってくる。書物でしかお目にかかれない放射線医学の偉大な先駆である先生方の名前が多く出てくる。その先生方と高橋先生のつながりも非常に興味深い。重要なインスピレーションをもたらしてくれる優秀な人との出会い,真摯な研究態度が重なり合ってひとつの偉大な仕事が完成することも示されている。
 日本が世界に自慢できる偉大な先駆者がいたことをぜひ知っていただきたい。先駆者の偉業を忘れることなく未来へ続く歴史物語としても読みごたえのあるものである。生まれたときからCTの恩恵を受けている人たちにこそぜひ読んでいただきたい書物である。

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