書 評

医療・福祉
科学の方法
─基礎と実例で示すテクニック─
福本 安甫,川北 一彦,山本 隆一,前田 和彦:編著
本体2,300円

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[評者]水野 肇(医事評論家)

 「科学」の方法論を扱った類書は数多あるかもしれない。しかし,医療・福祉系に焦点を絞ったものはほとんどないのではないだろうか。
 本書はそうした領域の人たちに向けて,科学論の導入としての考え方,論文作法,実験系の組み立て方・調査研究・統計処理・コンピュータリテラシーといった道具としての方法,そして関連諸領域の方法を覗いてみようという知的好奇心に満ちた模擬論文の紹介がなされている。そこには,社会福祉計画学,診療放射線学,言語聴覚コミュニケーション学,リハビリテーション学,柔道整復学などの比較的新しい学問領域,あるいはこれから学としての体系を築き上げていこうとする分野のアクチュアルな方法論模索の試みも取り上げられている。本書の執筆者たちが語っているように,「科学する」とは,肩肘張って,大上段に構えて何かをなすことではない。日常の現場における何気ない疑問から出発して,それぞれの対象者,医療・福祉の領域で言えば患者さんであり介護を必要とする人たちの現症(現状)を改善するための,まさに「方法」を見出すことにある。
 わが国の医療・福祉の世界はさまざまな問題をはらんでいる。その現場に空理空論を跋扈させてはならない。現職者,研究者あるいはこれからの若い世代が本書に学んで,そうした問題のひとつなりと解消されることを期待したい。
 本書を珠玉の宝石箱とするのは,読者自身である。

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