Med.Sci.Report

日本放射線技術学会第31回秋季学術大会
―胸部撮影時の生殖腺防護衣のゆくえ―
泉和会千代田病院 放射線部 柏田 陽子
 10月10〜12日,秋田市文化会館にて標記学術大会が開催された。ここでは,最も考えさせられた,放射線防護分科会の「ディベート:胸部撮影における患者さんの防護衣は必要か」について記してみたい。
 討論は,まず粟井分科会長から,胸部撮影時に防護衣を着けるようになった経緯の説明があった。それによると,当初のX線装置は多重絞りがなかったためにX線束を限局させることができず,胸部撮影でも生殖腺の被ばくが多かったことから,生殖腺防護の目的で始まったということである。しかし,現在のX線装置は多重絞りの性能が高く,胸部診断に十分な範囲の絞りであれば,生殖腺への被ばくはほとんどない。必要,不要,どちらの立場も,主張の裏づけは「絞り」がポイントになっていた。照射野と生殖腺との距離により防護衣の有用性は変わってくるからである。必要とする立場からは,実際の撮影では最適な絞りより広めに照射野を開いている診療放射線技師(以下「技師」とする)も多い,という調査結果が出された。両立場の討論者4名も含め,会場にいたほとんどは不要論者であったと思う。しかしながら,「自然放射線は防ぐことはできないが,医用放射線は防ぐことができる。だから,われわれ技師は防げるものはすべて防いでいかなければならない」と言う一人の必要論者が現れたのだ。そして残念なことに,ディベートに参加していた一般の方2名は,この必要論者の説明が一番わかりやすく納得できたと言うのである。
 問題なのは,防護衣の妥当性の見解が分かれているために,一人の患者に対し,技師により防護衣を着けたり着けなかったりすることが患者を混乱させ,被ばくによる不安を高めることになっていることだと思う。防護衣の要不要についての議論よりも,われわれ技師の誰もが「適正に絞り,防護衣がなくても生殖腺の防護は確保できている」と言い切ることのできる日が早く訪れるようにしていくべきだと,痛切に感じた。

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