Med.Sci.Report

日本放射線影響学会第46回大会
―低線量・低線量率の放射線生物影響―
大分県立看護科学大学 人間科学講座 甲斐 倫明
 10月6日から8日まで,標記学会が京都リサーチパークで開催された。今年の大会は,4年に一度の第12回国際放射線研究連合の国際会議がオーストラリアで開催されたこともあり,一般発表はすべてポスターで,口頭発表は特別講演やシンポジウム・ワークショップのみであった。
 シンポジウム「中性子の生物影響研究の現状と今後の展開」では,1999年のJCO事故を受けて注目されるようになった中性子の生物影響について幅広い視点からの議論が行われた。従来のRBE評価では入射エネルギーを用いているが,マウスのような小動物からヒトに外挿する場合,中性子線が組織中で誘起するプロトンと電子が吸収線量に寄与する割合が体型や線量の評価位置によって変わってくることが指摘され,今後のRBE評価方法に関する問題提起として注目された。従来,中性子の生物影響では発がんのRBE評価が中心であったが,最近のバイスタンダー効果や逆線量率効果の機構やそれらのリスク評価の影響について今後はさらに研究が進められなければならないことなどが指摘された。
 シンポジウム「低線量・低線量率放射線の生物影響―DNAから個体まで」では,最新の研究データに基づいた低線量(率)での生物影響が議論された。DNA修復機構として相同組換と非相同末端結合のうち,低線量率効果には修復誤りのない相同組換が関与していることが従来報告されているが,修復系に関与する遺伝子をノックアウトした細胞株を用いた実験からは,線量率効果に全細胞周期で働いている非相同末端結合修復の役割が大きいことを示唆したことが報告され関心が持たれた。また,低線量率の生体防御機能については,1mGy/hr程度でマウスのメチルコラントレンが誘発する皮下がんを抑制することが報告されているが,さらにU型糖尿病モデルマウスにおいても0.7mGy/hrの低線量率照射が症状の改善と寿命の延長をもたらすことが報告された。このように,低線量での適応応答については興味深い現象が数々観察されているが,正常マウスの長期低線量率照射での晩発効果では低線量率照射が寿命延長をもたらすといった結果は得られていない。これらの現象を総合的にどのようにとらえて,低線量・低線量率の放射線リスクを評価するのかはさらに発がんのメカニズムの点から検討を続けていく必要がある。モデル研究を行っている立場からは今後の研究について示唆を与えてくれる今回の大会であった。


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