Med.Sci.Report

第11回日本乳癌学会総会
―乳癌センチネルリンパ節生検は標準治療となりうるか―
埼玉県立がんセンター 乳腺外科 武井 寛幸
 2003年6月12,13日に新潟市朱鷺メッセで第11回日本乳癌学会総会が開催された。乳癌学会は会員数6816名を擁す大きな組織である。
 乳癌は周知のとおり本邦において年々増加している癌である。乳癌治療の歴史をひもとくと,一世紀前1890年代にHalsteadにより定型的乳房切除術(乳房,大小胸筋切除)が行われたのが始まりである。その後1950年代に拡大手術(内胸,鎖骨上リンパ節郭清を伴う拡大乳房切除)へ向かうも,術後成績は改善せず,70年代に胸筋温存乳房切除術,80年代に乳房温存術が開始され,乳癌手術は縮小化へ大きく方向転換した。90年代に縮小化の最終局面とも言えるセンチネルリンパ節生検が開始された。
 センチネルリンパ節とは癌細胞がリンパ流にのって最初に到達するリンパ節と定義されている(乳癌ではほとんどが腋窩に存在する)。理論上センチネルリンパ節に転移がなければ,その他のリンパ節にも転移がないはずである。報告ではセンチネルリンパ節とその他のリンパ節における転移有無の一致率は95%以上である。この結果,理論から実地臨床へ弾みがつき,センチネルリンパ節に転移がなければ,標準治療である腋窩郭清が省略されるようになった(当然慎重論もある)。われわれの施設でも,センチネルリンパ節生検後に腋窩郭清が行われなかった患者数は700を超えている。
 本総会では,センチネルリンパ節生検に関する演題が多数採用され,センチネルリンパ節の同定法,病理診断法などについて盛んな討論がなされた。同定方法では,@色素を注入し青く染まる(色素法),A放射能標識コロイド(99mTc-phytate,99mTc-Snなど)を注入し高い放射能を示す(RI法),のいずれかであったリンパ節をセンチネルリンパ節とする併用法が推奨された。
 参加者の多くが,センチネルリンパ節生検が将来乳癌の標準的治療になるだろうと予測していた。1世紀にわたり行われてきた腋窩郭清も早期乳癌患者にとってはその役割を終えつつあるというのが実感である。

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