――今秋小社より,乳房撮影の単行本を出版することになりましたが,石栗先生には編集から執筆まで構成全般にわたってお願いしております。本日は,その単行本の背景となる乳房撮影における放射線技師の役割,業務範囲,抱える問題などについてお話を伺いたいと思います。まず,放射線技師は乳房撮影における画像診断の担い手たりうるか否かについてお伺いします。
石栗:国際的に見ると,放射線技師が診断の手伝いをするというよりも,欧米ではCADに頼るという傾向があります。乳房撮影は海外から来る情報,診断方法が続々導入されるという状態で進んでいますが,この点については欧米における放射線技師と医師との関係というものが日本にとって手本になるとは思えません。放射線技師がCADの代わりをするのは,国際的に見て今の段階では難しいということになります。以前,放射線技師が集団検診で一次スクリーニングで読影をやって,ドクター1人がそれをもう一度診るというカナダの試みが『Radiology』に掲載されていました。通常は医師2人によるダブルチェックを行いますが,放射線技師と医師という組み合わせのダブルチェックで絞り込みをして,最後に専門的な診断のできる医師が診るというシステムを試みたものです。それが非常にいい成績でしたので,そうしたシステムを考えてはどうかという提言がなされていました。海外で参考になる報告というのはそれくらいだと思います。
――医師以外の職種のチェック機能を働かせるという意味でも,放射線技師が画像診断,読影に関与していくシステムが必要とされているように思いますが。
石栗:日本国内で,MMGの診断に放射線技師がどのように参画していくかということを考えると,やはり放射線科医の理解が一番重要だと思います。MMGの世界は外科医が中心なんですね。本来放射線科医が中心になってやらなくてはいけないのですが,現実にはCT,MR,AGのほうに進む傾向があります。外科医は手術をすることが仕事で,いかに正確に上手にそれをこなすかということを考えますから,画像診断はそれなりのプロがいたらその人に聞けばいいという感覚があります。ですから,外科医も婦人科医も放射線技師が読影に参加すべきだと言います。マンパワーが足りないのだったら,放射線技師が読影に参加できるようなかたちをとるべきだと。放射線科医でも現場にいると,放射線技師の助けがほしいと言うようになってきています。最近は大学病院でさえもマンパワーが足りなくなってくると放射線技師に頼みに来ます。ただ,公的な場所で放射線科医がその意見に賛成するということは,残念ながら今のところありません。
――MDCTの登場によって情報量が格段に増えていますし,CTで肺癌検診をという話でもマンパワーが問題になっています。そうなると,放射線技師の全体的な底上げで対応するというよりも,むしろ学会認定の専門技師による質の保証という方向に向かうような気がするのですが。
石栗:現実的には多分そういう方向性しかないと思います。全般的な話をすると,放射線技師がそういう専門性を持つところまで教育されているかというと,能力的な問題が今のところはあると思います。MMGと消化管についての技師の能力はかなり上がってると思いますが。
――MMGの場合,精度管理中央委員会のような組織があるから,品質管理能力はある程度保証されるということですか。ただ,それだけではどうしても限界は出るのではないでしょうか。例えば,専門技師制度のような差別化というのは必然的なものとなるでしょうか。
石栗:専門技師のような制度によって格差が出る状態というのは,中間から上での格差です。今,鈴鹿の教育センターをはじめ各地でMMGの講習会が行われていますが,受講者が急激に増えています。例えば埼玉県では10分の1の人間がMMG関係の講習会を受けているのですが,MMGがそれだけの比率を占めている施設はありません。けれども,MMGに関する意識レベルが変わってきたおかげで,全体の能力が非常に上がってくる傾向もあります。そのなかからまたステップアップした差別化がされていくので,そういう意味では非常にいいと思います。
品質管理を保証するシステムが整備されても,放射線技師が十分な画像情報を発信するためにはある程度の診断能力が必要です。また,そうなることで,逆に放射線科医も安心して診断ができるようになります。ただ,ここで一番の問題は放射線技師個々人の感覚です。診断能力のある人は異常があったときに,「この写真のままではこれ以上のことはわからない。答えを出さなくては」と考えます。たとえ勝手に撮るなと言われていても,「こういう写真が出ましたから,追加したほうがいいんじゃないですか」というようなことはあたりまえに言えるはずです。これは医療職として当然のことで,前向きに考えている人であればそういうことはやると思います。
――問題のひとつは放射線技師のハートにあると。
石栗:そこが基本的な問題点だと思います。一例をあげると,埼玉県立がんセンターのようにほとんどの読影を放射線技師がやっている施設があるということは,技師の熱意があってそうしているというだけでなく,結果が患者さんのためになったからです。最終的に患者さんのためにならなかったら,やっても意味がない。患者さんに伝わる情報がどれだけいいものなのかということが,放射線技師が生き残る最後の砦と言えそうです。そういうふうに自分たちが思っていることをいかに,正確にダイレクトに伝えていくかという手段を考えないと駄目だと思ったので,埼玉県立がんセンターの放射線技師は読影レポートを書かせてくれと言ったんですね。そうして,放射線技師の検査レポートを見ながら専門医が診断結果を書いて,それを外来に届けるという方法をとったわけです。今や埼玉県立がんセンターではどんなレポートでも,放射線技師が書くと言ったら書かせるようになっています。
――そこまでいくにはかなりの時間がかかりそうですね。それを支える熱意も。
石栗:逆に,信頼されると学習も追いついてくるんです。足りないものを補っていかないといけないと自分でも思いますから,相乗効果ですね。私たちの経験では,消化管とMMGのレポートを書くということを始めた結果,埼玉県立がんセンターにとっても,患者さんにとっても非常に役に立ったから,最終的にはすべての分野についてレポートを出すという傾向が出てきた。今は超音波も胸部単純も出して,これからCTの勉強をしている人もいるからCTのレポートもMRもとなってきています。
――放射線科医もいるわけですから,技師は第一レポートを出すということですか。そうすると施設全体のレベルは上がりますね。
石栗:大学病院から来たドクターでも「非常にわかりやすい,このシステムは良い」と言います。技師もわかるし,医師もわかるから聞ける人が増えるので助かるといいます。仕事も難しいことを言わなくても自然にやってくれるし,非常にいいシステムだと。そういう人たちが大学に帰って,自分たちの医局の人間に「あそこの放射線技師に教わってこい。勉強になるから」と伝える。また,逆にその大学の医局に呼ばれて「教えてくれ」と頼まれることもあります。そういうように,相乗効果で自分の周囲の社会も変わってきているということを実感できます。
そういう意味では,放射線技師にとって閉塞した状況の一部を崩すのに,いまマンモグラフィで示したこのような方法論が使われつつあるのではないかと思います。
――お話を伺って,職種の将来というのは最終的には個々人の意識に支えられているんだということを強く感じました。最後に,今秋の単行本の紹介を少しお願いしたいのですが。
石栗:今秋出す予定の本は,乳房撮影を行う放射線技師にとってこの1冊があれば基礎的なことはだいたいわかる,基礎知識は備えられるという辞書みたいなものを考えています。具体的には,品質管理の方法のみならずトラブルが出たときに何をどう探ったらいいかという考え方そのものが身につくような本にする予定です。
読んで覚えるというだけではなく,どうしてこういうことが書いてあるのかということが理解できれば,たぶん精度管理中央委員会のAランクがとれる実力になると思います。マンモグラフィの歴史についても国際的な流れや画像診断の流れも記載して,品質管理についてもどうやって調べたらいいのかという方法まで具体的に書いてあります。ポジショニングについても,ほんの数ページで終わっているような本がありますが,そうではなくて,こういう体型の人はどうするかということから,後は指の使い方から何から詳しく書いてある本にしたい。なぜそうなるかという理論を知らないのに形だけまねてもいい写真にはならない。しかし,診断能力のある技師と協力してポジショニングを考えていけば,指一本の使い方で写真が全然変わるというところまでもわかりやすく説明できます。だから手はこう使うんですよ,だから角度はこうなるんですよと。
例えば,よく「患者さんにリラックスしてもらわないといい写真が撮れない」と言われますが,それだけだと何が撮れないのかわからない。リラックスするための放射線技師側の対応の仕方もあるし,どうしたらリラックスをしてもらえるかという,方法論も書かなくてはいけない。リラックスした乳房ではどういうことができて,リラックスしていない乳房はどうなってしまうのかというところまで踏み込んだ内容にしたいと思います。
――そういう意味ではまさに,乳房撮影のバイブルですね。今秋の発刊に向けてよろしくお願いします。
今日はありがとうございました。
|