診療放射線技師国家試験の科目変更






























 平成15年6月10日付け官報第3624号により「診療放射線技師法施行規則の一部を改正する省令」が公布され,即日施行された。診療放射線技師学校および養成所におけるカリキュラムについての見直しがなされ,平成13年3月30日付けをもって「診療放射線技師学校養成所指定規則」を改正,4月から施行されたのを受けるもので,この科目変更に伴って平成16年度から新たな出題基準による診療放射線技師国家試験が行われることになる。その経緯,変更の趣旨,実際の教育現場ではどのように受けとめられているか,そして技師養成教育はどのように変わっていくのかなど,駒澤大学医療健康科学部診療放射線技術科学科の西尾誠示助教授に聞いた。
 ――厚労省の国家試験出題基準の叩き台となったのは,全国診療放射線技師教育施設協議会が2年あまりをかけて問題数の配分比率や各問題にどのような内容を含めるかをまとめた案だと思います。厚労省ではカリキュラムの大綱化を受け,平成14年6月に診療放射線技師試験出題基準作成委員会を設置し,その委員会が診療放射線技師試験の出題基準(ガイドライン)の作成ならびに診療放射線技師試験の改善について検討を重ねられたと思います。その後,基準作成委員会でまとめた案が,昨年全国協議会に示されて意見を求められましたが,問題点として,3年間では出題範囲が広すぎること,あるいは科目によって出題基準に粗密のばらつきが見られるとの意見が多く聞かれました。
 従来と比べて変わったところとしては,基礎科目のほかに専門職としての柱の科目を明確にしたことでしょう。個別にはエックス線撮影技術学から画像工学を切り離し,さらにIT時代を反映するように“医用画像情報学”という新しい科目が加えられたことがあげられます。それに“放射線安全管理学”のように専門職としてより責任を問われるような「安全管理」という文言が加えられていることも評価されることだと思います。非公式ですが,専門系と同じくらいの比重があった放射線物理や計測などの基礎系の出題数が少なくなって,医療系を重視する方向に向いています。すなわち専門系の出題を多くし,医療職の専門知識を重視しようとする意図があるのだと思います。
 医療系職種の国家試験はおおむねそうした方向にシフトしていますが,その結果として基礎能力が低下することが懸念されます。基礎科目というのは,臨床現場での放射線技師の応用能力を育てるためには必要なものです。できあがった上澄みの技術だけではなくて,基礎系の分野で学生に考える力をつけさせなければ,昔の職人教育になりかねません。学問というのは,基礎があってその上に積み上げていくものではないでしょうか。それから,最近の国家試験では「読影」の問題を見受けますし,今後も増加すると思います。しかし放射線技師には読影は必要ですけれども,せいぜい1,2か月の臨床実習を履修するだけの学生に,幅広い分野の臨床写真の出題をするのは酷のような気がします。国家資格ですから,専門職としての能力を問うわけで,専門的な知識を試すのはわかります。しかし,放射線技師の場合は,基礎的な科目をもしっかり修得しておかないと,将来困るような気がします。病院のなかで物理系の領域に秀でているのは放射線技師ではないでしょうか。もちろん受診者への接遇マナーや救急法などを身につけることも忘れてはなりませんが,画像情報ネットワークとか,装置故障時の応急処置など,すべて放射線技師が対応し,そういった分野でも存在感を示さなければいけないのです。
 厚労省のガイドラインには大項目,中項目,小項目に分けて範囲が示されていますが,その項目の内容をどこまで教えればいいかは説明されていません。また,問題数も増えるわけですが,4年間でそれだけの内容を教えられるか自信がありません。3〜4年間,難しい知識を詰め込むことが良いのか,時間をかけて考えさせて応用力を養うのか,難しいところです。時間が許せば,ゆとりを持った教育をして応用力をつけさせ,医療に必要な人間性なども,ぜひとも涵養したいものです。教育の現場では国家試験をも見すえた授業内容が要求されるわけで,すでに新カリキュラムにそって相当する科目でカバーするなどある程度は対応していますが,急激な移行は無理です。来年の試験では大幅には問題を変えないと非公式には聞いていますが,多少の混乱はあるかもしれません。
 今後,技師養成教育がどう変わっていくかということですが,先ほど言いました医療職種全体の流れに沿うように,教育現場としても医療系のほうにシフトしようとしています。画像の読影や患者の安全を守るための医療安全対策にかかわる知識を重視しようということもそのひとつの現れです。一方で,医用画像情報学のような新しい分野では,どういうことを,どこまで教えるか迷っているというのも実情です。とはいえ,柱を立て新しい科目が加えられたことは,今後診療放射線技師が扱う世界が広がっていくわけで,望ましいことだと思います。
(談)

(平成15年6月10日(火)官報 第3624号より)
診療放射線技師法施行規則等の一部を改正する省令
第一条 診療放射線技師法施行規則
(昭和二十六年厚生省令第三十三号)の一部を次のように改正する。
 第十号各号を次のように改める
一 基礎医学大要      
二 放射線生物学(放射線衛生学を含む。)
三 放射線物理学      
四 放射化学
五 医用工学        
六 診療画像機器学
七 エックス線撮影技術学  
八 診療画像検査学
九 画像工学        
十 医用画像情報学
十一 放射線計測学     
十二 核医学検査技術学
十三 放射線治療技術学   
十四 放射線安全管理学
(以下略)

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