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青木:平成13年度は前川先生が中心になってやられていて,私は14年度から引き継いだんですけれども,今までの活動は非常に効果があったと思います。最初は,前川先生が言われたように,本当にわが国でも初めての試みでしたので,どういうことをやろうかと皆で熱心に議論をしたり,教育学など教えるための勉強もいたしました。それでも地域の先生方や放射線技師さん,看護師さんたちは最初,原安協ってなんだろうという疑念があったようですが,継続してやっていくにつれてだんだんそれぞれの地域に浸透していき,知識,経験を積み,若い人も育ってきたと思います。それから,パワーポイントを用いて講習するんですけれども,その内容がだんだん洗練されてきたなと思います。ですから私は,その中身をもう少し噛み砕いて1冊の本にするというのは非常に大切なことだと思っております。とにかく,層の厚さと言うか,関心を持つ人が増えてきたことを本当に肌で感じています。
■『緊急被ばく医療の手引き』の特徴,利用法
衣笠:今,原安協における緊急被ばく医療に関するネットワーク構築・研修事業の経緯,成果についてお話いただいたんですが,現在『緊急被ばく医療の手引き』という本を各先生方に分担執筆をお願いしているところです。では,この本は誰にどういうふうに利用していただいたらいいでしょうか。
前川:そうですね,もともとこの企画の叩き台となったのは原安協の緊急被ばく医療研修の各モジュールのテキストだと思いますし,それに則って構成されていますので,基本的にはやはり原子力施設立地道府県における医療関係者を対象としたものだと思います。もちろんそれ以外にも,この領域に関心のある方々には必要最小限の知識を提供してくれる,そういうものになると思います。
衣笠:個人で読んでということですが,実際にどんなふうに利用したらいいでしょうか。
前川:この本をそのまますぐに実地の医療に応用するということは少し難しいと思いますが,内容的には包括的で,緊急被ばく医療に関連する基礎的な部分も包含していると思いますので,実際の医療を展開する前の幅広い知識を蓄積するという意味では有用だと思います。そしてこれに加えて,具体的な研修を重ねることによって実効性のあるものになっていくのではないでしょうか。
衣笠:今,原安協が文部科学省の事業委託で展開しているのは原子力施設のある道府県が中心なんですけれども,放射線を利用している施設というのは日本中いたるところにあります。そういうことも含めて,青木先生はどういう方に読んでいただきたいと考えておられますか。
青木:放射線事故というのは日本国中いたるところで遭遇する機会があるわけですから,原子力施設等が立地しているところだけではなくて,そのほかの地域の医療関係者,あるいは搬送や地方自治体の人も含めて,この本はそういった方々に読んでいただければ非常に役に立つと思っています。
衣笠:お二方はこの本の監修というお立場にあるわけですが,こういう本にしたいとか,こういう本ができあがればいいなあというご希望はいかがですか。
前川:そうですね。この領域におけるおそらく最初の教科書だと考えていいと思います。内容的にはモジュールA,B,Cのすべてを包括していまして,基礎的なことから法律までを含めて非常に豊富です。関係者の共通認識という意味では,緊急被ばく医療にかかわる人たちがそれぞれこれをお読みいただいて,ある程度の理解を持っていただくとその後の議論や,実際の実習に大いに役立つのではないかと思いますね。できれば読みやすい,面白いものにしていただけたらありがたいですね。例えば文献をいっぱい並べてあまりに学術的に走ってしまうと,逆にとっつきにくいかもしれません。とっつきにくいということは読む人が少ないということですし,面白い読み物として読んでいただけるようになると一番いいのではないかと思います。純粋に教科書にしてしまって,医学部の学生しか読まない,あるいは研修でしか読まないとなると,あまり意味がないような気がしますね。
衣笠:青木先生はいかがですか。
青木:私も大賛成です。いわゆる医学部の教科書というのでは面白くない。やはり,正確さは求められますけれども,絵がたくさん入っていて非常に読みやすいものにしていただきたいですね。正確さと読みやすさの両立というのは難しいですけれども,そこのところはぜひ工夫して,ひとつの物語のようなかたちでざっと読める,だけど内容的にはしっかりとしているというものを目指したいと思っております。
衣笠:本書の構成を見ますと,普通と違って応用編から始まっています。これはどのようなお考えからですか。
前川:普通は基礎から入って応用にいくと思うのですが,放射線医学は特に単位の話が出てくるととたんにややこしくなってギブアップしてしまうことが多いんですね。ですから,どちらかというと皆さんの興味が湧いてくるような放射線事故の歴史というあたりから説き起こして,比較的臨床的な話題を先にもってきて,さらにもう少し基礎的なことも理解しようと思えば後ろを見ればいいという構成にということでこの企画を立てたものです。
衣笠:放射線事故の歴史を取り上げることの意味というのは,何か特にお考えがございますでしょうか。
前川:緊急被ばく医療というのはまさに放射線事故による被災者に対する医療ということですので,そういう意味では本来緊急被ばく医療の対象となる原因事象というものをまず知っておく必要があるでしょうし,こと放射線に関して医療の視点から一番関心があるのはやはり事故だと思うんですね。そういう意味で事故について十分理解しておいて,そこから教訓を学ぶという内容を一番最初に置くほうが入りやすいんじゃないかという配慮があります。
青木:放射線事故と言うとすぐに思い浮かぶのがチェルノブイリ,それからスリーマイル島の原子力発電所の事故ですね。しかし,放射線事故の歴史を読んでいただけるとわかるんですけれども,実際は普通の密封線源あるいは非密封線源による事故が非常に多い。そして,そういう線源は日本国中いたるところにあって事故が起きる可能性が非常に大きいということがわかっていただければ,これは特殊な医療ではなくて普通の医療,自分たちがすぐにでもやらなければならない医療であると理解してもらえると思うんです。放射線事故というのは普通のところで普通に起きる事故なんだということです。ですからそれに対して準備が必要であろうということがわかっていただけるんじゃないかと思います。
■低頻度の緊急被ばく医療へのモチベーションをどう高めるか
衣笠:原安協の研修で各地に行きましても,医療関係者から自分たちがいつ使うかわからないものを勉強するのは,動機づけあるいは切実さという点でなかなか難しいという声もよく聞くのですが,前川先生はどんなふうにお考えでしょうか。
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