書 評

大学をつくった男
―鈴鹿医療科学大学・中村實の挑戦―
岡田光治:著
医療科学新書・本体1,200円

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[評者]江間  忠(元社団法人日本放射線技師会監事)

 「まず玄関を入るとき前面いっぱいに張られたガラスが,巨大な鏡の役割りをしていることに訪問者はおどろかされ,思わず自分の歩く姿勢を正してしまうにちがいない。そして広々としたスペースのロビーは,中央にレントゲン博士の胸像が飾ってあるせいか,その簡素なたたずまいとあいまって,美術館のそれを思わせる……」。これは,本書の著者岡田光治氏が平成2年,竣工を翌年4月に控えた大学の状況視察に訪れたとき,すでに敷地の一隅に開設されて2年になる日本放射線技師会教育センターの印象を述べた一節である。
 昨年12月,鈴鹿医療科学大学の中村實理事長を訪問した。教育センターは開設以来14年も経つ当時の様子そのままきれいに清掃されていた。そしてその広々としたロビーのソファに腰を降ろすと,一面のガラスの向こうにつくられた日本庭園には山茶花の赤とつわぶきの黄色い花が彩りをそえていた。この庭園はX線発見100年記念に鈴鹿医療科学大学より寄贈されたもので,当時は夜な夜な狸が出没したとか。今では庭園の一隅に信楽焼の狸がそのユーモラスな姿を見せている。速いもので大学開校以来13年,9回目の卒業生を世に送っている。また円筒状のユニークな大学院棟からは博士号取得者が昨年初めて生まれたという。
 中村理事長が日本放射線技師会会長として四年制大学を提唱したのは30年も前のことになる。そして,「卒業生を送り出して20年」と理事長が明言しておられるのは,すなわち放射線技師の教育は技師の手でを実現させるのに必要な年月である。私たちは本書に描かれた思いをこの20年に繋げなくてはならない。日本放射線技師会という小さな団体が,中村前会長の教育改革への情熱のもと一本になってなしとげた快挙の陰には,中村前会長をとりまく多くの人々との出会い,信頼関係,そして協力とともに全国会員の努力あってこそと思う。中村前会長が常々述べている「技師会会員の思いを背負っているからこそ不可能を可能にする力が生まれる」という言葉をしみじみと思い出している次第である。
 このたび出版された新書版『大学をつくった男』(『大学をつくった男たち』改題復刊)はいつでもどこでも手軽に読める本としてうれしい。技師会会員はもちろん,大学関係者,そして医療に携わる方々をはじめ一般の方々にもぜひ読んでいただきたい。医療チームの一員として,放射線技師として「国民から見える職業」を目指し,元気の出る放射線技師会のますますの活躍を期待するものである。
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