書 評

医療の大義に生きる
─中村實自撰論説集─
中村 實:著
本体3,500円

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[評者]熊谷 和正(社団法人日本放射線技師会会長)

 『医療の大義に生きる』と題された本を手にとった。ずしりと重みが伝わってきた。
 この重みは,著者である中村實博士(前社団法人日本放射線技師会会長,現同会名誉会長)が,放射線技師職の発展,否,医療の大義を確立するために生きてきた,博士の半生の実績の重みそのものであろうと感じた。
 本書は,博士が23年間に亙って世に送り出し続けてきた9冊にも及ぶ論説書のエッセンスを集約したものであるが,私は,過去に何度も原本を繰り返して読ませていただいてきた。
 今回改めて読ませていただいたのであるが,9冊の粋が纏められているだけに,読み応えがあった。第1冊目の書である『明日への旅立ち』は4半世紀前の出版であるのだが,驚いたことにまったくの陳腐化のかけらも感じないのである。
 『明日への旅立ち』で訴えた絶望的なまでの悲痛感,『今日の課題』での万丈の絶壁を見上げるような気の遠くなるまでの疎外感等々,著者が連綿と書き綴ってきた閉塞感に溢れた文面が,第4の書である『提言』あたりからは変化が見えるようになる。将来への希望が文中に読み取れるようになるのである。ちょうど大学つくりに明かりが見えてきたころである。「職業発展の根源は教育にあり」というのが,著者の一貫した信念であったから,当然のことであろう。
 著者は,あるときは夢のようなことを,あるときは毒舌にも似た辛辣さで,またあるときは著者自身を励ますように書き綴ってきたのであるが,そこには通奏低音のように奏で続けられているものがある。それは診療放射線技師という職業に対する「愛」そして人間への「愛」だと私は受け止めている。
 そしてそれは即ち,人間のために本来あるべき医療のすがたの追求であり,そして,その理想のかたちを具現化するための行動であったのである。
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