被ばく医療の先進国フランスに学ぶ
緊急被ばく医療に関する国際フォーラム
―フランスにおける緊急被ばく医療の現状―

開会の挨拶をする原子力安全研究協会放射線災害医療研究所長・青木芳朗


「フランスにおける国防放射線防護体制およびその機能」Dr. Hubert de Carbonnières(SPRA 軍放射線防護部門)


「フランスにおける緊急被ばく医療体制―汚染を伴う負傷者への対応―」Dr. Michel Croq(SPRA 放射線事故対応企画部)


討論の座長を務める東京大学名誉教授/原子力安全研究協会参与・前川和彦

左から,前川和彦,H. de Carbonnières,M. Croq

 3月20日,東京・平河町の都市センターホテルにて,原子力安全研究協会主催の標記フォーラムが開催された。緊急被ばく医療の先進的な国であるフランスの国防放射線防護センター(SPRA)から専門家を招いて,わが国の実効性ある緊急被ばく医療体制構築の一助とすべく,講演と意見交換が行われたものである。
 Dr. Hubert de Carbonnièresはまず,フランス軍の放射線防護を目的とする専門機関であるSPRAの放射線事故における緊急被ばく医療への対応などの任務およびその体制について,そしてわが国の初期被ばく医療機関にあたるPABRC(Poste d'Accueil pour Blessés RadioContaminés)および二次にあたるCTBRC(Centre de Traitement des Blessés RadioContaminés)の役割について解説(SPRAは三次に相当)。また,Dr. Michel Croqは,CTBRCを中心にフランスにおける汚染を伴う負傷者への対応の実際を説明した。フランス国内7か所に設置されたCTBRCは,どこで事故が起きても350km(車で3〜4時間)以内の距離にある。PABRC,CTBRCともに軍の組織で,なかでもCTBRCは病院に付属する施設として平時は活動していないが,緊急時にはその病院から使い慣れた機材とともにスタッフが集合して機能すると言う。講演のなかで両氏が強調したのは,「医療上緊急を要する問題が常に放射線汚染に優先する」ということである。
 続いて,前川和彦氏(原安協/関東中央病院院長)を座長に討論が行われ,原発など民間での事故時にも機能するのか,トレーニングコースはあるのかなどの質疑,また,搬送手段としての陸路・空路の優劣,原発50余基が稼働する日本ではどれくらいの数の類似施設が必要かなどの議論がなされた。そうしたなか前川氏は,PABRC,CTBRCなどに整備されている資機材が特に立派なものではなく普段は休眠状態の組織であるにもかかわらず非常時には十分に機能することを指摘,一方わが国では箱物行政ですばらしい資機材は整備されているが,その実態は死んだ組織ではないかと苦言を呈した。行政など関係者の一考を願いたい。
 終了後,本誌前号にSPRAなどを訪問視察した印象を寄せていただいた原安協・衣笠達也氏は「放射線事故時の緊急被ばく医療に関する経験を多く持ち,現在も国をあげてその研究,体制の整備・維持を積極的に行っているフランスの現場の担当者たちのコンセプトは明快で,バランスがとれており,今後わが国の緊急被ばく医療を整備・維持していくうえで大いに参考になった」と本フォーラムの意義を語ってくれた。
(文責:編集部)
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