『放射線技師に知ってほしい画像診断』を企画して
中西 省三(日本放射線技術学会第58回総会学術大会大会長)
 
――先生は昨年(2002年)の日本放射線技術学会第58回総会学術大会において,大会長として教育講演(5)「放射線技師に知ってほしい画像診断」を企画されました。タイトルの強烈な印象と会場の熱気は鮮明に覚えています。そのときから,私どもではこの講演をぜひ単行本としたい考えておりまして,そちらのほうの企画も先生にお願いした次第です。そこで,まずタイトルにあるように,画像診断を知っておくこと,いわゆる読影能力は放射線技師にとって必要でしょうか。

中西:不可欠のものであると考えます。診断に役立つ画像をつくるには診断のポイントとなる陰影なり,特徴を知ったうえで画像をつくるのと,マニュアルどおりの画像をつくるのでは信頼度のうえで雲泥の差があると考えます。アンギオ,DSA,MDCT,MR画像のように,すべての画像をプリントできない現状では,担当技師と医師との息の合った作業で両者の思惑が合致してつくられた画像と,それぞれの思惑で別々の考えで仕事をしていたのとでは大きな差があります。例えば単に腹腔動脈造影の場合は門脈本幹の描出はもちろん,胃静脈瘤の描出の有無によって静脈圧の破裂推定も可能になります。

――放射線技師は,まず臨床医が求めている要件を理解して,コミュニケーションを心がけることが重要ですね。

中西:常に注意しておかなければならないことは,自分の思い込みで画像をつくってはならないことです。偽医者になってはならないし,思われてはならないことです。依頼医の意見を取り込みながら,あくまで自分の意見として,画像に表現することも重要と考えます。100を知って10を表現する者と,10しか知らない者が10を表現するのとではその信頼度に大きな差を生じます。また依頼医の知らない最新技術をどしどし出すことによって,医療環境をアクティブにし,質の向上を果たせるのも,先進技術にかかわっている技師の役割と思います。

――放射線技師はモダリティについてのエキスパートであると言っていいと思います。依頼医よりも,モダリティの適応と限界については最新技術をフォローアップしている放射線技師のほうが詳しい場合があるように見受けられるのですが。いずれは,その知識を生かしてモダリティの選択までを技師が行うことがあるでしょうか。

中西:モダリティの選択まで技師が行ってはならないし,そのような場合はありえないと思います。なぜなら,医師は患者に対して全面的に治療の義務と責任があるからです。その根拠となる検査を選ぶのは重要な医師の判断であります。また患者に対するインフォームド・コンセントに対して十分な責任が果たせません。いくら技術革新が進んでも技師はあくまで技師として限界を知り,誇りを持って仕事をしなければならないと考えます。
 常に注意しておかなければならないのは,偽医者になってはならないことと(患者から)医者に思われてはならないことです。

――エキスパートは確実な仕事をすることが求められるということですね。診断価値の高い画像を提供するためには,各モダリティについてその撮影・撮像法に精通していることに加えて読影能力の必要性もよくわかりました。『放射線技師に知ってほしい画像診断』を単行本化するにあたっても,モダリティの適応と限界や撮影法についても触れますが,メインは画像の見方についてということになります。最後に,その本で読者として想定している放射線技師に対して,技師として持っておくべき心構えなども含めて一言お願いします。

中西:信頼し合えるパートナーになるには,チーム医療において構成員としての放射線技師のあり方を自問したとき,互いに信じ合えることが原点になると考えます。それは,専門家・医療人として職責を全うし,人間として信じ合えることだと思います。専門領域だけでなく,医療人・組織人・人間としての日々の研鑚が重要です。感性,知識,常識を大切にし,チーム全員の情報を共有し,技術の向上に励み(自分だけの思い込みを避け),基本を習慣化(マニュアル化)し,システム化に心がけ,それぞれの責任を自覚し日々の努力に励まなければなりません。
 現在,医療事故が問題となっていますが,目線を患者に合わせ,もし,自分が患者になった場合,自分の施設に受診したいか否かを考え,どしどし意見を出し(情報の共有),チーム内の一員として相互チェック(自分の職責以外に作業全体の認識)に注意し,事故防止を心がけることだと考えます。

――医師が放射線技師に画像の見方を教える『放射線技師に知ってほしい画像診断』は,チーム医療における信頼関係のひとつのありようを示すことになるのではないかと思っています。どうもありがとうございました。
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