インタビュー・著者に聞く
多田 信平(駿河台クリニック画像診断センター長・東京慈恵会医科大学客員教授)
著書 『エッセンシャルX線解剖学図譜─和・英X線解剖用語対訳集─』(2004年春刊行予定)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――多田先生の『X線解剖学図譜』は,1979年に第一版が出版され,以来1985年に第三版が編まれてから今日まで11刷という大変なロングセラーで,小社の方向を決めた出版物であったと思います。この1979年という年に『X線解剖学図譜』が出て,これほど多くの医療関係者に受け入れられ活用されてきたことの意味について,その果たした役割と言いますか,先生ご自身はどんなご感想なのかをまず導入としておうかがいいたします。
多田:そうですね。その前に動機についてお話しますと,その年から医学部の系統解剖学の講義の後に,普通は局所解剖学すなわち応用解剖学というのがくるんですけれども,それと並行してX線解剖学を開講しようということが大学で決まって,私がその担当に命じられたわけです。それで急いで教材をつくる必要から,この本が生まれることになったわけですね。Meschanの『X線解剖学』という本がアメリカのソンダース社から出ていたんですけれども,基本的にはその本を最も参考にしたと思います。それから1975年にはすでに日本にX線CTが入っていましたから,CTの画像をも取り入れた本となったわけですね。その本をつくりながら,確かに対象はどうなるのかなと考えていたわけですけれども,もちろん系統解剖学を終えた学生を対象にというのが主旨でしたが,つくっているうちにその範囲は明らかに越えて,研修医,しかも放射線の研修医のみならず他科の研修医,あるいは実際にX線の写真を診なければいけない医師にも使えるような本になったかなと思いました。
 それともうひとつには,撮影する放射線技師の方々にも役立ったと思います。何を撮っているか,撮ってどういうものが写っているのかという基本的な解剖がわからないと,撮影というのはできないんですね。そういうことから放射線技師の方々,あるいは技師学校の学生にも利用されるようになって,それまでは類書がなかったので,そういう意味で果たした役割は結構大きかったかなと思います。
――X線撮影でのフィルム枚数は年間に3億枚ぐらい撮影されているそうですね。そのうち95%以上は放射線科以外の医師が読影されているのが実態だということです。ですからそういう需要も満たしてきたと思われますが。
多田:『X線解剖学図譜』はX線で写るもの全般を網羅していますから,横に置いておいて無駄になる本ではなく,役に立つということを信じています。
――そのように,長いこと『X線解剖学図譜』の果たしてきた役割は大きく,今後も必要とされていくことに変わりはないと思います。しかし判型や値段の点で,診療現場での扱いやすさや学校の教材用にコンパクトなかたちに改変できないものかという要望も強かったわけです。そこで,このたび『X線解剖学図譜』をベースに全面的な見直しを図り,『エッセンシャルX線解剖学図譜―和・英X線解剖用語対訳集―』といったタイトルで,今年の6月に新しい本が生まれることになりました(2004年春刊行予定)。A5判変型で約380ページ,本体3,800円という,重厚ながら判型,価格ともにコンパクトにいたしました。また,全体的に改変がなされておりますが,この編纂の意図についてお聞かせください
多田:『X線解剖学図譜』は,最初の出だしが系統解剖学の後にくる講義だったものですから,やはり頭部から先にして骨が後になるとか,そういう解剖の教科書の順を踏んだかたちでまとめられました。しかし今度はもっと実際面を強調して,例えばX線撮影で最もよく行われるのは一般的には胸部で,その次には骨の撮影がくるだろうというので順番を変えたわけです。それから,なかには完全に行われなくなった撮影法などもあって,削るべきものは削りました。新しく加えた図もありますし,訂正されたものもあります。逆に喉頭造影あるいは気管支造影,リンパ管造影というのは今まったく行われないんですけれども,しかし解剖学としてそれらの像を見るとやはり理解しやすい。そういう意味で,図譜としては残したものもあります。
 もうひとつの大きな改変は,和文と英文のX線解剖用語なんですが,これを完全に辞典として役立つように巻頭にもってきました。『X線解剖学図譜』では,和文・英文はそれぞれ索引で確認することはできるんですけれども,その用語が英語でどう言うか,あるいは逆に日本語でどう言うかということは,そのたびに本文にあたらなければわからなかった。しかし今度は完全に辞典と同じように,和文を繰ると英文が横にある。英文で繰ると和文が横に並べてあるという形式にしました。それだけで80ページくらい費やされるそうで,辞典としても役立てていただければと思っております。また英文解剖用語そのままのがあったのを,これにも放射線用語集に準じた和文名を全部つけました。したがって英文だけの用語というのはなくしました。
――このコンパクト版『図譜』の活用法もアドバイスしていただけますか。
多田:診断する立場の医師としては,このX線解剖学というのはX線診断学の基本なんですね。X線解剖学というのは生体の解剖学です。ですからその解剖学を知らずに診断というのはできない。
 Evidence-Based Medicineが,このごろいわれておりますね。それから発してEvidence-Based Radiologyということも言われております。今までは診断法を評価するのに技術的な面とか正診度とかばかり追究してきたんですけれども,これからはその診断法でどう治療方針が変わったか,患者のどんな利益になったか。あるいはその診断法で他の診断法がいらなくなったのかどうかとか,そういうことを評価しなければいけない。そういうときには,このX線解剖学にもとづいた一番基本的なX線診断学が重要になってくるんです。例えば胸部単純撮影を読影できなくて,X線CTと比較するというのはそもそも無理なんですね。ですから基本を大事にしようという立場に立つと,このX線解剖学というのは非常に重要な役割を果たすのではないかと思います。
 それから撮影される放射線技師の方々も,このシェーマで示した解剖のポイント,ここが出ていなければいけないというようなことを参考にしながら,日常診療をやっていただきたいと思いますね。
――放射線技師の最近の動きとして目立っていることは,放射線技師のいわゆる撮影者としての読影と言いますか,そういったものについて今一生懸命やろうとしておりますね。こういった動きについて,放射線科医としての先生のお立場からご意見をお聞かせください。
多田:私はだんだんそっちのほうに広がっていくのではないかと思います。例えば乳房撮影の読影にしても,胸部の集団検診の読影にしても,computer-assisted diagnosis(CAD)というのがあります。あれはコンピュータに読ませるわけで,それから二重チェック的に医師が読影するわけですけれども,そういうものもあるくらいですから,診断医をサポートするという意味では,人間の眼のほうが高度だと思いますね。また現に日本の放射線診断医も数が十分じゃないですから,それをサポートする重要な役割を担っていくものと思います。実際に胃の撮影や注腸撮影というのは技師の方がどんどんやっておられますから,これはもう診断とほとんど一緒なんです。医師がやっていたことが全面的に置き換わることはないにしても,主体性を持って仕事をしたいという熱意のあらわれとして,放射線技師の方々のそうした努力は評価していきたいと思いますね。
――どうもありがとうございました。

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