21世紀の医学・医療の道標
第26回日本医学会総会

開会式


会頭講演・杉岡洋一


招待講演・田中耕一


記念祝典は各会場に中継された


記念講演・上田閑照



特別シンポジウム
「日本の医療の将来」



シンポジストA(写真右から,厚労相・坂口力,健保連副会長・下村健,日医会長・坪井栄孝,経団連副会長・西室泰三,看護協会会長・南裕子,医学会会長・森亘,全国町村会長・山本文男)


シンポジストB(写真右から,52回病院学会会長・秋山洋,九大院教授・尾形裕也,前ハーバード大助教授・李啓充)


指定発言(福岡市医師会長・竹嶋康弘)


司会(写真左から,前九大総長・杉岡洋一,久留米大学長・平野実,九大院教授・高木安雄)


閉会式

 第26回医学会総会(杉岡洋一会頭)が,4月4〜6日,「人間科学 日本から世界へ―21世紀を拓く医学と医療 信頼と豊かさを求めて―」をメインテーマとして,オープンしたばかりの福岡国際会議場などを会場に開催された。21世紀最初の総会であり,東京,名古屋,京都,大阪の三大都市圏4都市以外での初めての開催である。生命科学やIT技術の進歩に伴い遺伝子治療や再生医療,移植医療など先端の技術が革新される一方,世界経済が低迷するなかにあって医療財政も逼迫,大規模な医療制度改革が進められる状況にあるが,今次総会は岐路に立って医学・医療のあるべき姿を真摯に議論し日本医療の方向づけをなすものと位置づけられよう。学術プログラムは総数600余と前回の2/3程度に減少しているが,(1)21世紀医学・医療の使命―疾病の解明とその克服―,(2)人間科学と医学,(3)医療の改革を目指して,(4)医学・医療の進歩を世界へ向けて,(5)医療フロンティア:何を,どこまで,何で,治せるか? の5つの柱に編成,一つひとつの分科会のテーマを個別に取り上げるというより総合的,横断的なものとされた。
 開会式に続く会頭講演「21世紀を拓く医学と医療」で杉岡洋一は,科学技術の進歩の光と影,大変革期の医学と医療,人間の営みとしての医療への3つテーマを示し,生殖医療,ゲノム,遺伝子,再生医療などに光をあてつつ,負の成果である影の部分への反省を込めて人間科学という側面を強調。20世紀の医療は効率至上主義であったが,新しい世紀には社会との接点を求め,協力(地球化)の世界に変わるべきだとした。
 会場を移して行われた,招待講演「ソフトレーザー脱離イオン化の応用」では,昨年ノーベル化学賞を受賞した島津製作所・田中耕一が,自身医学の進歩に貢献したいとの気持ちが強くあったので,医学会総会の場で講演できることは大変光栄であると前置きし,専門の「質量分析」について解説。5〜10年先の夢物語としながら,一滴の血液から数百の病気を低コストで短時間に,しかも卓上型装置で診断可能にしたいとまとめた。
 中日5日には,皇太子殿下の行啓を仰ぎ,日本医学会百周年記念総会祝典が催された。九州大学医学部創立百周年を記念して作曲された「新大学祝典序曲」の演奏,主催者挨拶に続き,殿下は医学の発展に努力してきた関係者に敬意を表するとともに,その進歩を喧伝するばかりではなく,倫理面などをも含めた人間科学を議論することは意義深く,21世紀の健康・福祉に貢献されることを願うとお言葉を述べられた。記念講演は京都大学名誉教授・上田閑照(宗教哲学,人間存在論)が「人間としての生と死」と題して,飄々とした語り口で人間として生きるあり方を「生命,生,いのち」という連関のなかで示した。
 なお,「新興再興感染症」をテーマとしたシンポジウムでは,国立感染症研究所・岡部信彦が「重症急性呼吸器症候群(SARS)について」と題して緊急追加発言,最新情報を発信するとともに冷静な対応を呼びかけた。
 最終日は,朝9時から4時間半に及ぶ特別シンポジウム「日本の医療の将来」が持たれた。(1)理想とする21世紀の医療のあり方,(2)患者サービスの向上,患者中心の医療のあり方,(3)医療を支える財源負担と制度のあり方,(4)医学技術の進歩への対応―「混合診療」の是非の4つの質問に,厚生労働大臣・坂口力をはじめ7人のシンポジストAがそれぞれ行政,保険者,医療提供側,財界などの立場からの意見を発表,続いて前ハーバード大医学部助教授・李啓充ら3人のシンポジストBが同じ質問を念頭において,Aの7人の意見にコメントをするかたちとなった。そして総合討論では,新たな制度において医療財源をどこに求めるかを中心に,生々しい提言もなされながら,議論が進められた。4時間半という短い時間で結論の出る問題ではないが,自浄作用をもって自らを高めていく,医療は社会的共通資本との認識に立って医療のルールをまず明確にすることが必要,などが提案された。
 閉会式にあたっては,昨夏から数度にわたって持たれた福岡市民との討論,そして今総会の特別シンポジウムの成果などをまとめた「福岡宣言」のプリントが配布された。21世紀に目指す理想の医療は,心を持った人間を見失うことのない,生命の尊重と個人の尊厳に基づく患者中心の医療である。国民・患者は,「自分の健康・生命は自分で守る」という意識が必要である,などの内容が盛り込まれている。
 厳しい環境下にある医療界であるが,「福岡宣言」に記された理念を実践するとともにさらなる質の向上にも努め,国民の健康・福祉に寄与されるよう望みたい。なお,第27回総会は現大阪大学総長・岸本忠三会頭のもと,2007年に大阪にて開催される予定である。
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