書 評

医療被ばくガイドライン
患者さんのための医療被ばく低減目標値
日本放射線技師会・医療被ばくガイドライン委員会:編
B5判・本体1,500円・医療科学社

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[評者]草間 朋子(大分県立看護科学大学学長)

 日本の医療被ばくによる国民線量が他の先進諸国に比べて高いと言われて久しい。一方,さまざまな医療行為に対するインフォームド・コンセントが求められ,放射線診療においても本書のサブタイトルにもあるように「患者さんのための……」が基本的なコンセプトとなっている。患者さんにとって必要とされる放射線診療が科学的に適切な状態で実施されており,そのことが患者さんに納得してもらえるように説明できる状態であれば,国民線量が高くても一向にかまわない。まさに,Evidence-Based Medicine(EBM)である。
 放射線診療領域でEBMを実施する責任は,医師と診療放射線技師に課せられている。今回,日本放射線技師会から出版された本書は,社会,特に患者さんに対しても診療放射線技師がEBMを実施する努力をしていることを示したものである。
 最適な放射線診断のための目標値,すなわちガイダンスレベルについては,1996年に国際原子力機関(IAEA)から,成人に対して実施される典型的な放射線診断について提示されていた。今回,放射線技師会が本書で提案したガイドラインは,X線単純撮影,透視・IVR,X線CT,核医学検査について,小児に対する値も示されており,より詳細な実務的な値であり,この実現に向けてすべての放射線技師が責任を持たなければならないことになる。
 「序文」,「総論」では,日本放射線技師会としての放射線診療に対する取り組み姿勢が力強く書かれており,患者の立場からは頼もしいかぎりである。このガイドラインを診療放射線技師の間に徹底させることはもちろんであるが,すべての医師にも徹底させる努力を技師会としてぜひ行ってほしい。患者にとっての適正な放射線診療のためには,「最適化」以上に,「正当化」すなわち適用の判断が重要であるからである。
 それぞれの施設等で,ガイドライン,すなわち目標値以下で診断が実施されているかどうかを確認する作業が必要となる。そこで,ガイドラインの値と自分の施設の患者線量との関係を確認するためには,どうしたらよいか(測定器がある場合と,測定器を持っていない場合)についての項目がすべての章にあるとよかったと思われる。また,比較のためには,ガイドラインの数値が,どのような線量(入射面の表面線量,乳腺組織,中心軸の線量)であるかを各章に明記しておいたほうがよいと思われる。
 放射線技師会が提示したガイドラインは,放射線技師会が責任を持って今後も定期的に見直されることを期待したい。
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