書 評

リスクマネジメント
医療内外の提言と放射線部の実践
村上陽一郎/橋本 廸生/森田 立美/西村 健司/熊谷 孝三/前田 和彦:著
医療科学新書・本体1,200円

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[評者]岩崎 榮(日本医科大学常務理事)

 医療の現場からようやくインシデントレポートが出始めた。しかし,いまだ事例の多くはシステム全体を見直すには至っていない。ごく限られた個人レベルの問題にしぼられている。
 最近,たくさんの安全管理やリスクマネジメントに関する本が出版されている。その多くはシステム全体の見直しを迫ったものとなっている。
 今回出版された『リスクマネジメント―医療内外の提言と放射線部の実践―』は,全体のシステムからの問題提起と,実際の放射線部の現場から実践のうえの安全への提言がなされていて,最終章は法律との関係で締めくくられている。
 このような編集からは,ややもすれば膨大となり勝ちなところを上手にコンパクトにまとめられている。しかも,新書版として読者に読みやすさをアピールしている。必要にして十分な情報を伝える心配りがいかにもこの本の魅力を存分に示してくれている。
 リスクマネジメントは,現場からの声・レポートから始まると言っても過言ではない。
 冒頭に,著者の1人である村上陽一郎氏は「安全を目指す取り組みに,非常に消極的な,場合によってはマイナスの価値を与えられる傾向がある」として,日本社会全体に覆いつくす「リスクに対して備えがあることが否定的な価値」としてとられている。大いに社会に警鐘をならすべきだと言っている。
 そして医療の場面に目を移すと,あまりに安全への消極的さにあきれ果て,「組織内のリスクマネジメントを恒常的に維持するインセンティヴを問題にする以前の状態」だと糾弾する。それだけでなく,「医療界ほど情報共有に関して閉鎖的な世界もめずらしい」とし「現場は常に負の情報を隠蔽する」と厳しい。
 放射線診療の現場からは,“全職員への周知の必要性”として“情報の共有化”を図る委員会が設けられている。“委員会”があり,“マニュアル”が整備されればそれで終わりとする傾向にあるが,それがリスクをまねくことになる。その安心感が問題である。
 著者の橋本廸生氏は,「さて,一方で事故の詳細を見るまでもなく,原因が単純で,『こんなことで』と思われるケースが目立つ」としている。難かしい理論より現場からの“ヒヤリ・ハット報告”を勧め,「外部の目による評価に常時さらされる」ことを進言している。
 本書は医療人だけでなく一般の方々(患者)にも大いに読んでいただきたい。
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