Med.Sci.Report

第13回医療放射線防護連絡協議会年次大会
「高橋信次記念講演とシンポジウム」
医療被ばくを原点に戻って考える

医療放射線防護連絡協議会会長・古賀佑彦



京都大学放射線生物研究センター・丹羽太貫



原子力安全委員会委員長代理・松原純子
 2002年12月13日(金),国立がんセンター内国際研究交流会館にて開催された標記大会の本年度のテーマは「医療被ばくと人の放射線被ばく」。同協会・古賀佑彦会長は冒頭の挨拶のなかで,平均的な医療被ばくは放射線医療関係者の努力,装置や記録計などの進歩により相当の減少が達成されてきたものの,胸部単純のCR撮影,小児のCT撮影,IVR,コンピュータ化された放射線治療における入力ミスなどによる過剰照射といった一部領域で局所に確定的影響が現れる例が出てきたことは問題であるとして,一度医療被ばくの原点に戻って考えようというのが今大会のメインテーマであると述べた。
 教育講演の京都大学放射線生物研究センター・丹羽太貫は「低線量・低線量率被ばくに伴う放射線影響の課題」と題し,低線量放射線の生物影響のメカニズムや,治療への応用など基礎的な問題を詳説。一方,記念講演「国民の視点からの放射線障害防止と医療放射線利用」の原子力安全委員会委員長代理・松原純子は,わが国の原子力利用領域における放射線被ばく防護の実態を解説するとともに,一般国民の日常の放射線被ばくに関しても目を向ける必要があると言う。特に,医療被ばくなど人工的被ばくの機会が増えつつあることから,診療や治療時の患者や医療人の不適切な被ばくの予防は重要であるとする。そして,問題は原子力安全対策や放射線防護の現実,医療施設や日常生活における放射線防護の現実,低線量の放射線影響の実態などについて,公衆に正当に知らされていないことであり,専門化や国は正当に公衆に説明する責任があると言及。そのためには,翻訳ではなく,もっと現実を直視した思考と主体的表現が望まれると述べた。
 また記念シンポジウム「21世紀の医療被ばくの新しい防護体系に向けて」は,CT検査における被ばくの問題に論点が集中。米国でCT検査を受けた子どもに多数の発がんが見られることを報じ,全世界にセンセーションを巻き起こした2001年1月22日付けUSA TODAY紙の記事の情報源とされた論文を掲載したAJR誌編集長Lee F. Rogers, MDが特別発言として参加したこともあって,活発な議論が展開された。Rogersらの言う“One size dose not fit all.”は,特に小児患者のCT検査においては至言とすべきであろう。

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