原子力災害防災訓練は役に立つのか
衣笠 達也(財団法人原子力安全研究協会放射線災害医療研究所副所長)

避難所を想定した小学校での訓練

 2002年11月7日,福井県で原子力防災訓練が行われた。この防災訓練は2002年度の福井県原子力防災訓練であると同時に,国の原子力総合防災訓練でもあった。筆者はこの訓練を,(財)原子力安全技術センターが文部科学省から委託を受けた「緊急被ばく医療に係る防災訓練のあり方検討委員会(青木芳朗委員長)」の活動の一環として視察した。訓練のシナリオの概略は大飯発電所(関西電力)で原子炉事故が発生し放射性物質が環境中に放出され,原子力災害対策特別措置法に定められている通報基準に達し,事故はさらに進行持続,内閣総理大臣が緊急事態宣言を行ってオフサイトセンターを中心に防災活動を行うというものであった。
 オフサイトセンターにおける緊急被ばく医療に関して最も気になったのは,災害対策本部の医療班に参加している人たちが災害時に各自の役割を把握,確認できていない点であった。このため事故に関する情報の班内での共有が不十分であり,さまざまな事故情報に関してその内容の重大さ,例えば避難勧告など,程度に応じたリアクションが乏しく受身の訓練参加の印象が強かった。そのため実際の災害時には機能するのかという不安が残った。
 また,避難所での緊急被ばく医療に関して気になったのは指揮命令系統がきわめてあいまいであった点である。
 シナリオどおりの訓練は,実効性に関してどれほどの意味があるのかという疑問の声もある。しかし,参加する人たちの背景―すなわち普段は日常業務についていて訓練のための準備に十分な時間をとれないなど―からは,やはり細部にわたるシナリオは必要であろう。ただし,そのシナリオが十分に吟味され,各自の役割が明確であれば,参加者にとり十分に意義のある訓練になると思われた。訓練シナリオのさらなる充実が望まれる。
執筆者の著書: 放射線物語 !と?の狭間で
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