先進の診療放射線技師育成を目指して
駒澤大学医療健康科学部診療放射線技術科学科開設


初代学部長に就任する小山教授

 

 

 

 

 

 

 


新しい放射線技師の育成を待ち望む西尾助教授

 

 


画像処理システムの前で将来の夢を語る高野教授

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



「このシステムは,診断用X線領域(10〜160 kV)における線量計の校正を行う検査装置です。X線発生装置にはシャッタ,X線ビーム絞り機構,フィルタ機構が付属しており,X線の管電圧・管電流,照射時間,照射野,X線線質などを自由に選択できます。さらに,二次X線用の照射機構もあります」と実験装置の説明をする佐藤昌憲教授

 わが国における診療放射線技師教育短大化の嚆矢(1967年2月,学校教育法に基づく二年制短期大学,初めて駒澤大学に設置)となった駒澤短期大学放射線科が,この春,四年制大学の学部学科に改組される。藤田学園,鈴鹿によって先鞭をつけられた技師教育の四大化そのものは,もはや趨勢となっており目新しいものではないが,私学のフレキシビリティを生かして新しい放射線技師の育成を模索する駒澤大学の試みを取材した。
 同大学は,東京・渋谷から電車で7分,緑豊かで広大な駒沢オリンピック公園に隣接した地に位置する。正門を入り,文化系の研究・講義棟を通り抜けて一番奥まったところにある研究棟の一室に今回の取材を企画していただいた西尾誠示助教授を訪ね,まず,CT,超音波,一般X線装置,TV透視装置,マンモグラフィ装置,FCRなど100〜150床レベルの病院に対応できる設備を備えた実験・実習施設を案内していただいた。なかでも画像工学実験室のネットワークシステムは,富士フイルム時代のFCRの開発で著名な高野正雄教授が推進するもので現在第一次のシステムが稼働し,2004年度には第二次増設をして医用画像処理の研究施設として外国にも誇れるものにする予定という。

コース制による高度の専門性を持った診療放射線技師の育成
 まず,四年制大学の学部学科への改組のねらい,理念をうかがった。
 医療健康科学部の初代学部長となる小山正希教授は,「われわれが四年制の学部にしたかった理由のひとつは,できるだけ特化したかたちの学生,この分野に対する熱意とより高い専門性を持った学生を培養し,日本における医療画像分野のエンジニアリングの向上に寄与したいという希望があったからです。そのためにはぜひとも,学部,大学院体制としていくことが必要だと判断しました。
 診療放射線技師がエンジニアとしてやるべきことはますます拡大しつつありますが,総花的教育には限界がありますので,高い専門性を得るためには領域の集約が必要であると思うようになりました。臨床の知識について非常に詳しい人,一方で,画像の伝送とか構成について非常に詳しい人,他分野でも使えるような専門性の高い人を養成できる教育のシステムをつくりたいということです。診療放射線技師の需要がある程度飽和してきている昨今,付加価値を持った学生を育成すれば,ほかの分野からのニーズも期待できるだろうとも思っています。そのために,すべての学生におしなべて同じように教育するというカリキュラムのやり方では,限られた時間のなかでは到達しうるレベルを引き上げることができませんから,ある程度特化した教育を行う目的で,臨床に重きを置いたコースと,それから画像のエンジニアリングに重きを置いたコースというものを設定することにしました」と言う。
西尾助教授は,「この10年ぐらいの間に技師養成の四年制大学が十数校でき,カリキュラムも充実したと思いますが,いわゆる放射線技師のイメージがあまり変わっていないんですね。そういう現状を打破するには,分業化,あるいは新たな能力の開発が必要だと私は思います。その分業化も,放射線技師がいて物理士がいて,放射線医助手などがいるというアメリカ型の分業化は決して日本の病院にはなじまないと思いますので,今放射線技師が日常業務としてやっている撮影なら撮影,治療なら治療をやったうえで,画像管理とか放射線管理などに力を入れていくほうがいいんじゃないかと思うんです。つまり,基盤としては,あくまで基本的な診療放射線業務を遂行できる学力を身につけ,さらに特殊な能力を高め,拡大していかないと,放射線技師は変わっていかない」として,日本放射線技師会で推進している読影の知識,あるいはペイシェント・ケアや看護学的なものも身につけていこうという問題を軽視するわけではなく,コース分けをしてエンジニアリングに強い技師を養成しようというのは,最低限放射線技師としてそうしたことは身につけたうえでの話だと言う。「当然,技師会が推進しているように医療面や看護面に力を入れようという道があってもいいし,われわれのように今までの放射線技師にさらに独自の能力を付加した技師をつくろうというタイプがあってもいいと思います。それに,駒澤大学は仏教を基本にした大学ですから,もっとそれ以前の問題にも力を入れているわけです」と,付け加える。

医用画像工学に卓越した技師の育成
 エンジニアリングに強い技師というのは,企業のなかでは仕事がしやすくなっていくものの,日本の場合,病院という組織のなかではまだ制度的に確立された地位がないのではとの懸念に対して高野教授は,「日本の病院のなかでは画像診断分野の整備が遅れていると思います。しかし,状況としてこれだけ医療費の削減が厳しく求められている時代ですから,今病院の経営者が望むことは,病院の経営をいかに合理化していくかという策を立てる人材の確保ではないかと思います。しかし,今病院のなかで一番お金がかかる分野は画像診断分野で,その整備をする専門家が“不在”と言える状況ではないでしょうか。アメリカのようにPh.D.を配するというのは無理な話で,撮影する技師さんがネットワークや画像工学に長けていてその管理もしてくれるというのが日本的な要求じゃないかと思います。
 それと西尾先生も言われたように,単に短大を四年制にするだけではなく,四年制に変わることによって何か新しい柱を立てるということが必要なのではないかと思います。このことは,各大学とももっと考えたほうがいいのではないでしょうか。特徴がなくてただ四年制にするというのでは意味がありません。ですから,駒澤短大放射線科の四年制学部学科への転換は,高度化する医療,特に放射線部門に対処できる新しい放射線技師を育成することをねらいとして,これまでの教育内容を見直し,IT時代に即した教科の開講と設備の新設を進めています。具体的には,従来の基礎科学,技術,教科に加え,さらに重点教科として“画像”を取り上げ,デジタル画像の基礎理論,画像機器とネットワーク技術論,画像処理論とアルゴリズムの技術,画像伝送理論とネットワーク設計技術,各モダリティの原理と技術などの学習を強化する予定でいます。そして,三年次から診療技術科学コース,および画像技術科学コースの2つに分け,特に画像のコースでは放射線技師であるとともに,画像工学に卓越した知識を有し,診療現場の画像の管理システム,ネットワーク設計などができる人材を養成します。これは,米国におけるPh.D.に相当する人材で,病院だけでなく企業などへも就職の道をひろげることにつながると思います。
 大学をつくって,それから大学院までということになれば,学問として確立していくということです。そのために研究環境を強化し,社会に受け入れられる大学という方向性を目指し,より具体的な育成目標を達成したいのです」と,力説する。
 そのために,画像工学実験室のネットワークシステムは,実験棟内にあるデジタルX線画像撮影システムからDICOM規格で蓄積された1000症例にのぼる臨床画像データを画像学習用PCや研究用高精細ワークステーションなどの医療画像処理システム系に呼び込んで画像処理研究が行えるようになっている。このシステムは,授業で使われていないときは,学生が自習のために自由に使えるようにするのだとも言う。前述のように,現在は第一次のシステムを構築しただけであり,2004年度には第二次増設をし,また,それに先立って2003年度には,画像研究所(仮称)を設立して,産学共同あるいは他学と共同で研究ができる場をつくりたいとも言う。
「現在に至るまでも,理工分野の人間が医療現場で活躍することは非常に難しい状況があります。要するに医療組織というのは免許のない者をシステムに組み入れるについては種々の障害があるわけです。ですから,物理屋さんが線量計測などで入るべきだという話が兼ねてから今に至るまでずっとありますけれども,これに一番近いのが診療放射線技師の資格であって,彼らがそういう方面の仕事もやるのが一番いいんですね。医療のなかで本当の意味でのエンジニアたりうるのは診療放射線技師の資格,その分野しかないのではないかと思います。むしろそれをはっきり自覚して医療のなかのいろいろなところに役に立つような発展の仕方をもっとしたらいいと思うのです。そのひとつがネットワーク,画像であり,ひとつは画像と疾病との関係だと思います。
それから,例えば今X線をあれほど使っているにもかかわらず線束管理などはほとんどメーカー担当の状況にありますが,本来は使用者側がしっかりとやって,こういうふうにあるべきだというハードウエアをむしろメーカーに対して示唆して,ほんとうに人のための診療機器をつくる方向にまでいかなければいけない。そのためには三年制の教育体制ではやはり無理です。診療放射線技師が積極的に企業側を誘導しうるような状況をつくり上げるためには,教育体制をそのように整合化していかなければならないと,そういうような発想をしているんです」と,小山教授も熱を帯びてくる。
 いずれにしても,新しい学部学科は「『行学一如』の精神に則り,常に自己を問い続ける」という建学の理念を踏まえ,そして,文系の総合大学のなかの学部であるという特徴を背景に新しいタイプの診療放射線技師育成を始める。その成果は,5年,10年という先の話ではなく,産学共同や他学との共同研究というかたちですぐにも現れてくるかもしれない,お話をお聞きした先生方の意気込みに,そんな思いが頭をもたげ始めた。この旋風が他学をも巻き込んで吹き荒れることを期待したい。
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