私はこの物語りを特攻隊員の実録戦記として読んで貰いたいのではなく,特攻隊員とは一体どんな人間で,何を考えていたのか。私達のペアであった故吉川功,故田中茂幸との生活態度から見ていただきたいと思う。何しろ三十数年前の昔のできごとなので,攻撃行きなどのある数種の場面を除いては記憶が錯綜してはっきり思い出せない部分もある。またたとえ思い出したとしても,我々のあの頃の行動を充分ご理解できないこともあると考え,その頃の者とペアが考えていたことを中心に,記述いたしました。
もともと私は軍人としては,海軍用語でいう「気合の入っていない」どちらかというと柔弱なものであり,われわれ特攻隊の行動が必ず日本を救う転機訪れるなどとは考えておらず,ましてや一機一艦を屠る作戦が最上であると考えていた特攻の初期の隊員とは異なり,戦争の後半に大量生産によって生れた航空隊員なのです。しかし,戦後の本には昭和初期生れの人が特攻隊員として実戦に参加されたように思われがちですが,昭和生れの人は殆んど特攻隊員として参加しておりません。
ましてや敵の空母で息を吹きかえし,軍人としての体面を傷つけたものなので当時のことを思い出すことを避けておりました。
現代の人々は特攻というとスリルとか,豪快だとか思い浮かべるかも知れないが,本当に弾丸の飛び交う中を飛んだことがないので無理からぬことと思います。とにかく今のヤングの方達と何ら変らぬ若者であったことだけは事実です。
特攻の心理を今の人達に理解していただけるか自信はないが,私にとってその当時の隊員の考え方をこの歴史の中に残すことが,私の残された人生での勤めではないかと考え,あえて筆を取った次第です。
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