1.出版の目的―ハイパーサーミアの正しい理解と普及のために―
温熱療法(ハイパーサーミア)が悪性腫瘍の集学治療のひとつとして期待できる理由は,その生物学的根拠が確立しているからである。わが国の長年にわたる臨床成績が認められて,1996年4月電磁波による局所温熱療法が全面的に健康保険に採用になった。温熱療法単独,温熱療法と放射線ならびに抗癌剤との併用の有効性が認められた意義は大きい。
この機会に,すでにハイパーサーミアの治療を経験している医師・放射線技師・看護婦(士)の方々の治療効果を一層高めるためのよい参考書として,また腫瘍医学に関係する医師の方々に,ハイパーサーミアの適応と有効性を理解していただく啓発の書として編纂した。
2.Thermotron-RF8を中心に選んだ理由
本書の企画にあたって,最も慎重に協議した事柄であり,次の理由から選んだ。
(1)加温装置にはそれぞれ長所と欠点がある。臨床応用の問題となる事柄,例えば有効な加温技術,適応と限界,治療効果と副作用などを明らかにするためには,加温装置を一機種に絞ることで解答が出しやすく,また読者にも理解しやすいと考える。
(2)厚生省が製造と販売を許可している加温装置は9機種である。医療情報雑誌「新医療」の調査では,1998年11月現在,198施設に248台の加温装置が設置されている。1台の加温装置が160施設81%であり,2台以上の装置を持つ38施設の大部分が大学病院である。1台の加温装置で表在加温と深部加温を実施しているのが一般的であり,しかも治療対象が深在性腫瘍が圧倒的に多い。こうした現状と要求に対してThermotron-RF 8ならば適切な解答ができると考えるのである。
(3)臨床編の各部位のハイパーサーミアのまとめの論文には,Thermotron-RF8以外の加温装置の特徴,適応疾患,治療成績と副作用などについても,できるだけ多くの資料をとりあげて考察している。
(4)本書の出版を契機にして,他の加温装置によるハイパーサーミアの著書が出版されることを期待するものである。
3.内容と特徴
本書の構成と内容に斬新な形式を取り入れた。意見の統一を図るために,たびたび編集委員会を開催し,また文書で意見を交換し次の構想がまとまった。
1.序論
ハイパーサーミアの全貌と現状を理解するために,ハイパーサーミアの理工学,生物学,臨床医学の最近の動向を,わが国ならびに諸外国の研究について解説する。それぞれの分野でわが国を代表する方々の執筆であり,限られた紙面に内容が凝集している。
2.臨床編
本書の中核として全体の6割を占める。ハイパーサーミアの特長が発揮できた教材症例と,各部位ごとのハイパーサーミアのまとめで構成し,臨床応用に直接役立つように編集した。
(1)教材症例の募集と選考
ハイパーサーミアで顕著な治療効果を発揮した症例報告を,Thermotron-RF8を設置する69施設から公募した。教材症例の条件として,ハイパーサーミアを選ぶ理由,上手に加温するコツ,治療効果など8項目を設定し,見本の論文を添付した。32施設から53症例の論文提出の申し出があった。4人の編集委員の厳正な審査で38編の教材症例を選考した。その内訳は,ハイパーサーミアと放射線との併用23例,放射線・抗癌剤との3者併用7例,抗癌剤との併用5例,ハイパーサーミア単独3例である。教材症例は他の治療法では治癒の可能性がない症例を対象にハイパーサーミアの有効性を立証する珠玉の論文であり,userの,userによる,userのための企画が見事に結実している。
(2)各部位のハイパーサーミアのまとめ
まとめの論文執筆者の打ち合わせ会議で,内容と項目が統一されている。すなわち,それぞれの部位の腫瘍に対するThermotron-RF8の適応と加温のコツ,治療成績などについて,著者の経験を中心にまとめる。同時に,Thermotron-RF8と他の加温装置での治療成績と副作用について,国内と外国の文献を調査して比較考察する。
3.基礎編
従来の編集の順序を変えて,臨床編での提案事項に対し基礎編で回答する企画である。ハイパーサーミアの生物学的考察,加温装置と加温技術,温度測定の仕組みについて,学識経験豊かな研究者と新進気鋭の研究者が担当した。いずれの課題についても,実際の臨床応用に役立つよう平易に解説している。同時に,生物学の新しい課題,加温技術と温度測定法の新しい研究開発などの論文は,ハイパーサーミアの今後に明るい希望と勇気を与える内容である。
4.本書出版の期待
長年にわたる多くの研究者の努力と英知が実って市民権を獲得したハイパーサーミアの臨床応用が低迷を続けている。その最大の理由は,ハイパーサーミアの有効性を十分発揮していないことである。本書はこうした疑問と評価に見事に応えている。
わが国におけるハイパーサーミアの研究開発以来,指導的役割を続けた4人の編集者は,悪性腫瘍の治療に携わる医師と医療従事者の座右の書となることを確信して本書を公刊する。
1999年10月吉日
編集責任者 松田 忠義
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