QCは実行されて初めて意義のあるものです。そのために簡便で価格の安いテストツールが必要ですが,残念ながら,わが国ではQCテストツールに対する関心は低く,どちらかというと学問指向的な研究に関心がいき,その基礎段階であるQCが置き去りにされている感は否めません。これは本末転倒で,QCを行ったあとに学問的な研究がなされるべきものと考えます。知的興味が先行している弊害として,他の先進国に比べQAが10年ほどの遅れをとり,結果として本書で扱ったQCテストツールのほとんどは外国製品ということになってしまいました。簡便法のQCだから管理の質が落ちてもよいということは決してありません。逆にX線出力の直線性や管電圧の正確さのように,QCの推奨値は国際(国家)規格の2倍ほど厳しいのが常です。QCが普及しないからテストツールが高価である,高価だから購入しないの悪循環を断ち,テストツールへの関心を高めQC活動を軌道に乗せるのが本書の目的です。本書で紹介したQCテストツールは市販のものか,または手づくりでできるものに限り,特定のルートでしか入手できないものには触れていません。
また,本書は既存のQCプログラムの補完をするものです。例えば,放射線技術学会では“放射線技術QCプログラム”,日本腫瘍学会では“外部放射線治療装置の保守管理プログラム”があり,このほど「放射線治療QAのガイドライン」を公刊しています。技術学会ではテストの難易度に応じて,A:使用者側で行う,B:できたら使用者が行う,C:点検技術者に任せたほうがよい,の3ランクに分けています。本書では当然AおよびBランクが対象となります。また腫瘍学会でも,施設の実施体制により同じく3ランクに分けています。この場合はすべての施設のQC活動が本書の対象となります。
QCプログラムは段階的に改善されるもので,矛盾を含みながらも何もしないよりは一歩でも前進することを念頭において作成されるものです。学問的な立場から矛盾のみを指摘し,結局は何もしないということは許されません。学校教育,また各学会活動においても現場の改善に役立つ教育,研究姿勢を重視すべきと思います。
本来,機器の管理は購入者の責任において行うものです。日本放射線技師会では機器管理責任者認定講習会を行い,使用者側の責任体制の確立に努めています。前述のランクづけのように,機器の保守は使用者と点検業者の協力によってまっとうされるものです。使用者側でできない点検項目は点検業者に委託しなければなりません。点検業者も期待に応えるべく認定制度を設け点検技術者の養成を行っています。また,日本医学放射線学会のQA委員会も被曝線量軽減のための活動を行っています。使用者・業者双方の協力のもとに放射線科でのQAの基礎が固まりつつある状況です。本書がこの動向への一役を担うことができればと思っています。
次に,本書の体裁と使用法について述べます。本文は可能なかぎり簡潔で,実用的なQCテキストとなるように心がけました。ただ,テストツールのほとんどが外国製品であるため,製品がブラックボックスとなり,使用者が現象のみを追いかけたり,ときには誤った使用により誤った判断をしている報告を目にします。そのツールに対しては理論を簡潔に記述いたしました。それ以外の専門的な内容は成書に任せ,その文献名を記しました。また,学校の実験テキストとしても使用できるように,各章末にはワークシートのほかに,[実験]という項目を付しました。さらに,あまりにも学問的なテストは[参考実験]として項目のみを列記いたしました。
末筆ながら,本書の執筆にあたりご指導くださった多くの方々,および出版の機会を与えてくださった医療科学社に感謝の意を表します。
1997年3月 稲田 哲雄/佐藤 伸雄
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