30年間を振り返るとき,多くのことが思い出される。平成2年12月に若い男性の撮影で進行胃癌が発見され,その夜,目覚め“人の悲しみを我が悲しみとす,この苦闘の中で己の技術を研く,人の喜びを我が微笑みとす,その喜びの中で己の技術を研く,この心我一点の翳なし”。と書き残した言葉がある。このような気持,考えになれたことは恩師・馬場保昌先生にご指導いただく中で,撮影,読影のみならず,物の見方,考え方および姿勢までもご教授いただいたことの一端であろう。尊敬する師との出会いが大切であり,ご鞭撻くださったことに深謝したい。
内視鏡については,相手をよく知ること,つまり内視鏡検査の優位(利点),劣位(欠点)などを知ることである。利点としては,食道,胃十二指腸,大腸検査に汎用でき,生検ができ,治療が可能など,これらのことは内視鏡が中心となる。欠点としては診断(観察性)に客観性を求めることが困難であり,技術が診断を大きく左右するとも思われる。また,感染症事故,人件費(医師)が高いなどがいわれている。すなわち,内視鏡がX線検査にとって代わるとすれば費用効率を無視できないであろうから,午前中に約20人を検査することが要求される可能性がある。そうすると,検査が雑になることも考えられ欧米型の検査が横行し,内視鏡検査の質的レベルが低下することも否定することはできないと考えられる。現在,内視鏡医がX線検査に対して言っている,X線検査は無駄であるという言葉がそのまま内視鏡検査に返ってくる可能性も秘めており,将来の未知的なことも考慮すれば,それらのことも含めて思考することが大切であろう。
今後の上部消化管X線撮影はどのようになっていくのか,多くの先駆者により築き上げられた二重造影法を中心とした胃X線撮影の行方が発展するためには検査の質を向上させ広めるための活動が必要である。また,X線撮影の有用性を理解し,後を受け継いでくれる人がどれだけいるかにかかっていよう。これらは,長期間消化管X線検査に携わっている方々の命題であり,どの様な,批判,抽象を受けようとも真実(事実)を伝えることが重要である。そのためには,自らが意欲を失わないことが大切である。
最近では造影剤の開発により,微細病変の描出が可能になったこと,X線装置の改良,開発により良く見えて,良く写るようになったこと,これらのことから二重造影法の利点が生かされるようになり,撮影手技が比較的に簡略化されてきている。
将来的には,イメージインテンシファイア・テレビカメラを使用しないフラットパネルディテクタが脚光を浴びており,X線を画像にするプロセスがシンプルで,画像歪がなく,鮮鋭度が高い画像が得られるばかりでなく,検出器が矩形のため,上部,下部消化管X線撮影では撮影範囲が広く有用である。特に直接変換方式ではX線画像を直接電気信号に変換するので大変鮮鋭度が高い画像が得られる。これからがX線画像の新たな飛躍の時代である。読影の分野でも放射線技師の時代が到来しよう。
筆者は恩師のご指導の下に患者様のご協力によって今日まで現役で上部消化管撮影を行ってきた。所詮一人ではできようもない仕事をここまで一筋に行うことができたのも恩師のご指導と患者様のご協力の賜である。恩師に対し心から深謝するとともに,患者様のご協力に感謝する次第である。
稿を終わるにあたり,御指導賜った馬場保昌先生(早期胃癌検診協会),阪本康夫先生(阪本胃腸・外科クリニック院長),藤田昌英先生(西岡病院副院長,大腸治療研究会代表世話人),川上晉先生(川上医院院長)に深謝いたします。
本書出版に際し,ご尽力賜りました金森勇雄先生(鈴鹿医療科学大学),五島正博先生(大阪労働衛生総合センター),藤井要先生(MIC健康管理部),松尾雅基先生(市立堺病院,大阪府放射線技師会副会長)に深謝いたします。
胃・大腸撮影技術研究会(大阪,銀杏会)の幹事,小川澄男先生(池田回生病院),守正先生(エヌエスシー),溜池成次先生(枚岡病院),大槻喜世典先生(寺元記念病院),中園直幸先生(千船病院),桑田英樹先生(今川病院),芳野克洋先生(恵生会病院),中川好久先生(合志病院),村上渡先生(大阪中央病院),川本幸一先生(あらき内科),正木悟先生(大阪厚生年金病院),山本賢一先生(ガラシア病院),井戸昌之先生(恵生会アプローズタワークリニック),奥畠匠先生(大阪中央病院),浦上浩之先生(OMMメディカルセンター),柴 正典先生(ひまわりクリニック),谷村雅孝先生(寺元記念病院),平定一郎先生(岡山市医師会総合メディカルセンター)に感謝いたします。
また,胃のシェーマおよび校正に協力した中村亮太(千船病院)に感謝する。本書の発刊に際し,父中村満信,母中村美雪の支援および精神的な支えとなった中村美知枝,中村多恵に感謝する。
最後に,本書の出版にご尽力いただきました(株)医療科学社に深謝いたします。
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中村 信美 |
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