序:医療法における放射線遮へい計算申請実務マニュアル

 国際放射線防護委員会の1990年勧告を受けて国内の関係法令が改正された。診療用放射線の防護に関し,医療法施行規則の一部を改正する省令が平成12年12月26日厚生省令第149号として,関係告示(「廃棄物詰替施設,廃棄物貯蔵施設及び廃棄施設の位置,構造及び設備に係る技術上の基準の一部を改正する件」,「医療法施行規則第24条第6号の規定に基づき厚生労働大臣が定める放射性同位元素装備診療機器の一部を改正する件」および「放射線診療従事者等が被ばくする線量当量の測定方法並びに実効線量及び組織線量当量の算定方法の全部を改正する件」)とともに公布され,平成13年4月1日から施行された(医薬発第188号)。法令改正の要点は,職業被ばくの線量限度,管理区域の線量基準,健康診断,新しい医療技術への対応,X線装置の基準の見直しなどであり,さらなる医用放射線安全管理の重要性が問われている。

 そういう社会的な背景のもと,筆者は平成12年から15年まで新病院の立ち上げに参画する機会を得て,新病院の放射線施設の構築に携わった。当然ながら既存施設の廃止(変更申請に伴うリニアック,テレコバルト装置,リモートアフタローディング装置,およびラジウム病棟),リニアックおよびリモートアフタローディング装置の更新,診療用放射性同位元素の廃止と新設,そのほかエックス線撮影装置,血管造影装置,CT装置,MRI装置,血液照射装置,骨密度測定装置,結石破砕治療装置,診療用歯科エックス線撮影装置などの廃止・移設・更新・新設など,関係法令に対する書類の作成と手続きに着手する必要があった。そして,診療上の時間の制約を受けながらも申請手続きを完遂することができた。本書は,そのときに作成した放射線機器等の申請手続き書類を基本にしてまとめたものである。申請書類の形式は,「国の開設する病院・診療所に関する医療法の手続き」にそっているが,国が開設する以外の医療施設にも問題なく適用できるものである。

 使い方として,本書は実用書との観点から冗長の嫌いがあるものの必要な箇所を参照していただき,そのまま真似て記載していただければよいように工夫しているつもりである。また,本書は,医療法の申請手続きだけに限定しているが,該当する放射線機器の放射線障害防止法の申請手続きにも非常に役立つものである。さらに,関係法令の手続き方法を解説した参考書には,「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行について」(医薬発第188号),「国の開設する病院・診療所に関する医療法の手続きについて」(厚生省健康政策局指導課長通知 指第63号),『放射線施設のしゃへい計算実務マニュアル』(原子力安全技術センター),『医療領域の放射線管理マニュアル』(医療放射線防護連絡協議会),『診療放射線の届出と実際』(日本法令)など優れた手引書が発刊されているが,ぜひ,本書も座右の書として参考にしていただき,診療現場で十分に活用されることを願うものである。

 本書の作成に際し,筆者の気がつかない間違いや誤記,さらには不十分な箇所があるかもしれない。もし,そのような箇所があるときはどうかご容赦をいただくとともに,ご指摘,ご意見,ならびにご叱責をお寄せいただければ幸甚である。また,本書には,上記の参考書や市販の関係法令集を参考とし,引用させていただいた。ここに深く感謝の意を表する次第である。

 最後に,本書の出版にお力添えをいただいた医療科学社の長谷川三男氏に深甚なる謝意を表するものである。

平成16年6月 熊谷孝三