自 序:〈新編〉 臨床医学概論


 現在の医療は,まさしく高度な医療機器を駆使し患者様の利益になる方法を選択して診断と治療がなされる時代にある。診療放射線技師の分野も例外ではなく,次々と研究開発される最先端の科学技術が直ちに画像検査・治療に応用され,患者様の治療成績を飛躍的に向上させてきている。
 診療放射線技師は,エックス線に限らず,高エネルギー放射線,放射性同位元素などの放射線全般にわたる人体への照射,さらにMRI検査,超音波検査などの医療業務に従事してきており,医師・歯科医師,薬剤師,看護師とともに医療職種の一員としての長い歴史のなかで実績を築いてきたとの自負を誰もが持っている。この間に,放射線技師学校・養成施設での教育カリキュラムは幾度となく改正され,平成13年4月にはその大綱化が実施され専門分野,特に医療業務に関係の深い科目の単位数の増加や学校の特色を生かした内容となり「科学的根拠に基づく医療」(Evidence-Based Medicine:EBM)の実践が求められる時代に至ってきている。特に,疾患と検査・治療法との適合性の確認,疑問点に関する医師への問い合わせと確認,得られた情報の妥当性の確認などを根拠とした,臨床応用への適用性の評価ができることが社会的要求事項となっている。
 このような時代背景において,その第一段階である臨床医学概論は欠くことのできない第一歩であると考える。臨床医学の理解度が不足すると前述の評価基準の設定評価が困難となるばかりか,低レベルでの社会的評価に甘んじることにもなりかねない。
 第1部には疾病概念と基本的検査概要の基礎を第一歩より記述し,臨床医学を学ぶための入門的意味を加味した。続く第2部では日常的に用いられている症候を中心に病態との関係を概略的に述べ,医療専門用語の解説も加えて,患者様の苦痛と病態生理との関連性の理解に少しでも役立つのであればとの思いで記述した。
 最後に第3部は著者らが過去10年間に発刊してきた〈診療画像検査法〉のうちで「X線撮影法」「超音波検査法」「MR検査法」「X線CT検査法」「X線造影検査法」「乳房検査法」「歯・顎顔面検査法」などの各実践編の著作を基に日常臨床で数多く遭遇する疾病を中心にした疾病概論,各種画像検査概要,治療概念について記述した。臨床医学を学ぶための入門書になり得れば幸いである。
 臨床医学に関する入門書や専門書は数多く出版されている。著者らは日常診療で体得した知識のみに基づいているため浅学菲才である。各医療施設で苦楽をともにした医師,歯科医師,薬剤師のご指導とご協力をいただき執筆に努力を重ねたが,成書に比して劣る点が多いものと自覚している。今後は今まで以上に先学諸兄姉皆々様のご助言並びにご指導を賜り,本書をより臨床現場の実践に即した内容に充実発展させたいと願っております。
 最後に,執筆に際し叱咤激励を賜りました鈴鹿医療科学大学理事長・中村實先生,ご指導を賜りました木沢記念病院病院長・山田實紘先生,大垣市民病院消化器科部長・熊田卓先生,並びに各医療施設においてご指導とご協力を賜りました医師,医療従事者の皆々様,本書の制作にご尽力をいただきました(株)医療科学社に深謝いたします。


平成16年 早春
著者代表
診療放射線技師  金森 勇雄