書評
岩崎 榮
リスクマネジメント
─医療内外の提言と放射線部の実践─
 
著 者:村上陽一郎(東京大学名誉教授,国際基督教大学大学院教授)
    橋本 廸生
    (横浜市立大学医学部医療安全管理学教授,
                 附属病院医療安全管理指導者)
    森田 立美
    (横浜市立大学医学部附属病院放射線部・診療放射線技師)
    西村 健司
    (医療法人医真会八尾総合病院放射線科・診療放射線技師)
    熊谷 孝三
    (国立病院長崎医療センター放射線部・診療放射線技師)
    前田 和彦
    (九州保健福祉大学専任講師)



■新書判・並製 ■198頁
本体価格 1,200円(税別)
2002年10月12日発行
ISBN4-86003-309-4
[医療科学新書]

 
★安全対策にタブーはない。★

 あらゆる現場で,それぞれの尊い経験に基づいて培われてきた安全対策,リスクマネジメントのすべてを活用して,医療の世界にも,制度的,体系的な安全への取り組みを実現させようではないか。

 確かに危機や事故は,負の価値である。そしてそれらに対する対策は,負の価値を減らす意味しか持たず,積極的な正の価値を生み出し,増大させることにはつながらないようにもみえる。
 しかし,この考え方は間違っていると私は確信している。何事をなすにも,負の価値が伴うことは常識である。それを徹底的に抑え込むということは,一切の正の価値の増大を求めることの前提条件である。正の価値がどれほど生み出されても,安全が損なわれれば,収支決算は明らかに損失に傾く。その意味で,安全への配慮は,組織にとって,第一義的な価値を持つ,という認識が決定的に重要になるのである。
村上陽一郎(本文より)

 法制度が患者のために創出した最も基本的なリスクマネジメントが医療従事者の資格制度であると言える。この資格制度が法的なリスクマネジメントとなるためには,資格法における職種の業務範囲と責任の所在が明確であることが必要となる。もちろん条文上ではなく,医療現場の実情と合致していなければならない。法と医療現場とのギャップがひろがればひろがるほど,資格制度は危機管理能力を失うことになる。
前田 和彦(本文より)


 
安全な医療のために─序にかえて(編集部)
あとがき(橋本 廸生)
著者紹介
 
主要目次
第一章 安全学の境位 (村上陽一郎)
  1.一般の問題点
  2.医療における安全
第二章 リスクマネジメント―理論から実践へ (橋本 廸生)
  1.医療におけるリスクマネジメントの理論的基礎
  2.「安全な医療を提供するための10の要点」策定の経緯および趣旨
  3.クリニカル・ガヴァナンス
  4.放射線部におけるリスクマネジメント実践の評価と医療界への敷衍
  5.リスクマネジメントの実践のために
第三章 放射線診療の現場から
 第一節 公立病院放射線部におけるリスクマネジメントの実践 (森田 立美)
  1.安全管理体制の確立
  2.放射線部における安全管理活動の実際
  3.安全管理に向けた他部門との連携
  4.職員教育
 第二節 民間病院放射線科におけるリスクマネジメントの実践 (西村 健司)
  1.医療法人医真会における安全管理事始め
  2.医真会放射線科におけるリスクマネジメント
 第三節 インシデントレポート分析,事例集 (熊谷 孝三)
  1.典型的なリスク事例
  2.代表的な医療事故例
  3.ヒヤリ・ハット事例
第四章 リスクマネジメントと法律 (前田 和彦)
  1.リスクマネジメントとわが国の医療
  2.医療事故(過誤)のリスクマネジメント
  3.インフォームド・コンセントとコミュニケーション
  4.法改正の必要性
 

 
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