あとがき(リスクマネジメント)

 医療に限らず,安全を確保するための有効な方策は「標準化」の推進である。要するに均質化するわけである。モノや手順を標準化し均質なサービスを提供するのである。そしてこれを「ルール」として集団に徹底することで,ミスは減少するはずである。
 ところが理論的にはその限界も見えている。医療が本質的に不確実であることと患者がそれぞれの生活史のなかで生きていることが,標準されたサービスをあてはめる限界の根拠である。医療の最終的な目的が,患者の疾患を治療することではなくて,個々の人々の生活をサポートすることだからである。この個別性への対応を,提供する医療サービスの標準化にどのように取り込んでいくかは,現実には今後の課題である。少なくとも,この意識は持ち続けるべきであると思う。
 米国の政府系医療研究組織が,国民向けに,医療被害から身を護るためには,「患者としてあなたの治療にかかわるすべての決定に関与しなさい」と勧めている。患者中心から患者協動への戦略も忘れてならないポイントとなろう。

 わが国における医療のリスクマネジメントは急務ではあるが,いまだ緒についたばかりである。全体を見ると急ぐあまり肩で息をしている風情を否めない。ゆっくりと着実に歩を進めていきたい。医療界全体,そして各職種の叡智と決断を期待したい。

(橋本廸生)